硝子のサンクチュアリ
プロローグ ~1~

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 金色の月の雫が、花色の空から、紺藍の海へと、零れ落ちていた。  海に溶ける月影は、白い波頭に飾られて、夜を優しく彩っていた。  僕たちだけの秘密。僕たちだけの幸福。誰も知らない、僕たちだけの楽園。  小鳥のように暮らした、海の見えるあの部屋は、天国に限りなく近かった。     「ユキ、祐希ゆきが行くんだったら、私も行く」  家を出ると口にした僕に、美羽みうは少しの迷いもなく、そう言った。  ユウキという僕の名前を、短くユキと、美羽は呼ぶ。「ユウキ」という響きが持つ、押し付けがましい強さが嫌いな僕は、舌足らずな美羽の呼び方が好きだった。  ―― 美羽にだけは伝えて行こう。  でも、だからといって、そう思ったわけじゃない。ただ、ずっと一緒だったから、なんとなく伝えようと思っただけだった。 「ハッ、何言ってんだか。おまえ、変わってないな。なんでも俺と同じにしようとする。そんな簡単に決めることじゃないだろ?」  笑いながら、なかば呆れたように言い放った僕の腕が、ぎゅっとつかまれた。 「簡単になんか、決めてない」  思いつめたような声音に振り返れば、誰にも似ていない、灰色がかった榛色はしばみの瞳が、僕の視線を吸い込んでいく。 「私、祐希がそう言うの、ずっと待ってたんだよ」  呼び出した河川敷の暗闇に、美羽の泣き出しそうな声が溶けていった。

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