硝子のサンクチュアリ
プロローグ ~2~

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 子供の頃からずっと、僕らはいつも一緒だった。  家の近所に、同い年くらいの子供はふたりしかいなくて、僕らの家族は、子供に無関心な母親しかいなかった。だから僕らは、深夜遅くまで帰らない母親を待つよりも、ふたりでいることを選んだ。別々の友人が出来て、別々に遊び歩いても、僕らはいつも一緒に夕食を食べ、どちらかの母親が帰るまで美羽の家で過ごしていた。  でも、美羽の母親が再婚して、美羽に新しい家族が出来てから、僕らはあまり会わなくなっていた。家が近いから、お互いを見かける事はあっても、話すほどの事はなくて、ただなんとなく眺めるだけの日々が、三年ほど続いていた。  意味もなくただ一緒にいた僕らに、一緒にいる意味を見つける事は難しかった。  それでも、美羽のことを思わない日はなかった。  それは、拾って帰ることが出来ない捨て猫が、いつまでも、いつまでも心に引っかかる感じに似ていた。    だから、本当に最後になるかもしれない今日、この場所で、美羽を突き放すつもりはなかった。でも、こんな返事が来るとは、思っていなかった。美羽は、僕とは違う。今ある環境が整っているなら、なにも無理に出てゆく必要はない。そう思っていた。 「学校はどうするんだよ」  高校を中退した僕と違って、美羽は真面目に学校に通っていた。美羽が毎日、決まった時間に家を出て行くのを、僕はアパートの窓から見下ろしていた。 「学校なんかやめる」 「あと少しで、卒業なのに?」 「祐希!」  皮肉めいた僕の口調を、美羽の声が掻き消す。美羽の淡い、淡い、榛色の瞳が、見る見る潤んでいく。 「学校なんて、行きたくて行ってるわけじゃない。他に行くところがないから、しょうがないから行ってるだけじゃない。なんで? なんで、祐希? なんで知ってるくせに、そんな意地悪言うの?」  何かが、破裂したような声だった。我慢して、我慢して、膨らみきった感情が、ぶわっとあふれ出したような声だと思った。

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