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 そうして、嫌々ながら家路に向かおうとしていた僕のすぐ前、誰もいなくなった砂場の真ん中に、ぺったりと座り込む子供がいた。  それが、美羽だった。  いつも、迎えが来ないのは僕だけだった。だから、同じようにひとりぼっちの子供を見つけたのは、その日が初めてだった。  綿毛のような頭が、ぽわぽわと風に揺れていた。肩ひもつきの赤いスカートの裾が、砂に埋もれている。煤けた感じのブラウスの胸元は、醤油か何かのシミで汚れている。暗闇が落ちようとする公園の隅で、その子はふんふんと鼻歌交じりに砂をいじっている。傍に置かれた、柄の取れた黄色いバケツから、ちゃぷちゃぷと水をまいては、足元の砂をただただ積み上げていく。 「なにやってんの?」  問いかけると、ぴょんと音がするくらいの勢いで顔を上げたその子は、泥だらけの手で口を拭って、にっこりと笑った。 「山!」 「山?」 「うん、山」  積み上げただけの砂を、両手でバンバンと叩いて、同じ言葉を繰り返す。  泥のついた顔。欠けた前歯。細すぎる身体。舌足らずな言葉。その姿は、あまりにも貧相で、ひどく可哀想に思えた。なのに美羽は、ニコニコと笑って、次の言葉を待っているようだった。 「山、つくってるの?」 「うん、そう。山、つくってる」  また泥で汚れた指を、口元に持っていこうとするから、僕は思わずその手を握っていた。不思議そうに見上げてくる美羽の、見たこともない瞳の色を、じっと見つめ返した。 「泥、つくよ」  そう言うと、握られたままの自分の手を見て、ふにゃっと笑う。

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