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「何処、行くの?」  ぼんやりと滲んでいた視界が、美羽の細い問いかけに、ぱちんと弾けた。 「何処だっていいだろ? 知ってどうすんの?」  僕の問い返しに、美羽は微かに笑って、小さく首を振る。  僕らが何処に行くのか、それはきっとたいしたことじゃなくて、美羽だって本気で気になんかしていない。ただ、この電車が、出来るだけ遠くに行くことを、きっとふたりともが望んでいた。  目指す先に着くのは、きっと夜になる。夜の闇に紛れて、僕らは新しい生活を始める。なんてよく似合うと、少しの卑屈さもなく、むしろ喜びさえ感じながら、僕は思っていた。    いくつかの駅を乗り継ぎ、電車を降りてすぐタクシーに乗り込んで、目的地に向かった。夜の国道の端には、椰子の木みたいな南国の木が立ち並び、その向こう側に海が見えた。 「日本じゃないみたい」  僕たちは、雪国育ちで、海と言えば日本海しか知らなかった。  それだって、山ばかりだった僕たちの町から海は遠く離れていて、簡単に行ける場所じゃなかった。そんな僕らにとって、海の見える風景は憧憬に近い。 「そうだな」  応えながら、海側に座っていた僕の肩を掴んで、窓際に寄ろうとする美羽の頭を撫でた。  太平洋を望む海岸線は穏やかで、不思議な開放感に包まれていた。どんよりと暮れた海なのに、それでも海があることが嬉しくて、美羽と二人、飽きることなく窓の外を眺めていた。

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