きみに届けるシンフォニー
第一章 届けたい想い 8

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 誰か――。誰か――とどこか――。  心の悲鳴が溜息となって漏れた時、奏と修がつれだって昇降口にやってきた。 「たっくん、お待たせ」 「おまっとさん」  挨拶もそこそこに修が下駄箱を開けると、どさどさっと紙束が落ちてくる。  あらら、と呟いて白、赤、緑、黄、と色とりどりのラブレターを拾う修を拓人と奏はすかさず手伝う。 「すごい量だな」 「そのとおーり、俺はいつもすごい」  まんざらでもないように修は胸をどん、と叩いて高笑いした。 「夏休み前だからかな、いつもより多いよね?」  うきうきした声でラブレターを集める奏だが、修は一転して浮かない表情である。 「前からの疑問だけど、まさかお前、全部読んでるのか?」  拓人の問いに手を止めた修は神妙な面持ちで深く頷いた。 「当り前。気持ちがこもった物を粗末にしちゃダメっしょ。ちゃんと返事も書くよ」 「律儀だな」 「人として当たり前っしょ。誰かを好きっていう美しい感情を無視したらバチがあたる」  拓人は感心した。  修がモテるのは小学校からずっとだが、なぜか特定の恋人はいない。  本人はそれを『さてね』とはぐらかすのだが、何か特別な理由があるのだと拓人は思っている。  付き合いの長い拓人でも修とそこまで深い話をした経験はないが、時がくれば修はきっと相談してくれるだろうと信じている。こういったデリケートな話を修は茶化したりしないので、拓人の恋愛についても昔から詮索してこないから助かっている面もあるのだ。  ただ、拓人としては学内でもモテる修が特定の相手と付き合わないのが不思議だったし、修からすれば拓人の恋愛観が気になっているのかもしれない。  拓人がもやもやしている横で奏が苦笑した。 「バチがあたるって、修くんが言うと笑えないよ」 「俺はあると思うよ、人を繋ぐ不思議な力」 「縁のこと?」 「そう。合縁奇縁って言うっしょ。縁は大切にしないとバチがあたるよ」 「えっ! そうなの?」 「よせ、修。奏が怖がってる」  拓人が小突くと修は場を取り直そうと咳払いをした。 「奏、修はさ、人の気持ちを大切にしようって言いたかったんだ」  拓人が言い直すと、修は同調して何度も頷く。 「そそ。さすが拓人。このまとめ上手さん」 「そうだね。自分の気持ちばかり押しつけるのはよくないよね」  そう言うと、奏は寂しそうな顔で修に手紙の束を手渡した。  拓人と修は日頃から一緒にいる奏を心配した時期がある。  留まる所を知らないモテ期の修に幼馴染の奏はぴったりくっついているのだから、他の女子からのやっかみがないかと常に二人は気遣っていた。  知らない者同士が多い高校入学時こそ色々あったが、幼馴染であることが公の事実となり、奏が修に気持ちを寄せる女子の相談役になったのがきっかけで、疎まれる心配は全くなくなった。  今では三人で一組と公然の事実となっている一方、学内に隠れ奏ファンがいる話を修から聞かされた拓人は苦々しい気持ちが芽生えるのを抑えきれなかったものだ。 「二人ともありがとさん。じゃ、久々に三人で茶しよう」  手紙で膨れた鞄を背負い持ち、修が先頭をきって歩きはじめた。

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