きみに届けるシンフォニー
第一章 届けたい想い 6
拓人が所属する歴史研究部は文化系部活動でも人気が低く部員は三人しかいない。 その内二人が三年生で実質引退したので、現在の部員は二年生の拓人一人である。 先輩がいた頃は歴史談議や研究発表、それに夏と冬に日本各地の史跡や博物館巡りを行う実直な部活動だったが、今年は遠出も合宿も保留のまま自然消滅してしまいそうだ。 枝川と二人になってからは日本各地の妖怪話に花が咲き、歴史とは名ばかりのミステリー研究会の様相を呈している。 さらに新婚の枝川は奥さんとうまくいっていないと高校二年生の拓人に悩み相談を持ちこんでくるから、正直これは部活なのかと思いたくなる時もある。 拓人の心配をよそに枝川は落胆した様子もなく、アルバイトの疲れを心配される程度ですんだ。 居眠りの代償に夏季合宿を遠野物語巡りにすると宣告されたが、拓人が本気で尻込むと枝川は冗談だと笑い、居眠り中の授業の補習をしてくれた。 どうやら今日の部活動は勉強会で終わりそうだ。 このまま新入部員がこなかったら、卒業まで枝川とマンツーマンの受験対策になりそうだなと拓人は本気で思っている。
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