残照
9-1

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 彼女が僕を困らせるのは、ただ意地悪をして、からかいたいというだけではなくて、隠された理由があった。そのことに、ようやく気が付いた。  彼女は、人を信じられなかったのだ。僕の思いを煙に巻き、さりげなく遠ざかろうとしたのはすべて、その理由からだった。  かつてあまりに大きな裏切りを経験し傷ついた彼女は、人と距離を縮めることに、人を信じることに、信じたいと願ってしまうことにおびえていた。  僕は彼女が好きだ。けれど、彼女が僕に応えてくれることはない。この先も、ずっと。  目の前によこたわる残酷な現実に、僕はただ、一人涙を流した。                                                             175  ※  気まぐれで朝、テレビをつけると、ハロウィンのニュースが流れた。それ自体に思うことは何もなかったけれど、10月がもうそろそろ終わるのだという事実に、時の流れの速さを感じた。  学園祭は盛況に終わったらしく、もう一週間が経つというのに、いまだに思い出話が聞こえてくることもあった。僕は彼らよりずっと早くに現実世界に帰ってきたいたので、いつも通りに講義を受けていたのだけど、一つだけ日常に欠けているものがあった。凜の姿だ。学園祭の後すぐに、彼女は体調を崩したのだった。  もしや大病を患ったりしたのではと心配にもなった。だから何度か本人に確かめたけれど、それは絶対にないとのことだった。だから、きっと一度休んでしまったものだから、癖がついてしまったのだと、良いほうに考えることにした。  同じく一人暮らしの大変さを知る友人として、何か見舞いでもしようかと思ったけれど、僕は彼女の家を知らない。教えてもらうのもどうかと迷ってしまい、結局訊けずにいた。  凛がいないことの影響として、まず僕が退屈で仕方なかった。初めは鬱陶しく思っていたのにと、僕は自分を笑う。  それから、白木さんが心配のあまり毎日青ざめた顔をしていること。連絡してみたらどうかと僕が勧めると、体調が悪いのに返信をさせてもいいのだろうかと思うと、連絡できないらしかった。距離が縮まったのでないだろうかと余計なことを考える。  ほかにも理恵子さんが心配のあまり、皿を何枚か割ったらしかった。僕はただの風邪だと説明したけれど、余計なことに一週間くらい学校にきていないことまで言ってしまったせいで、実は重症なんじゃないかと疑念を抱かせてしまった。  あと最後の一つ、これは全く関係ないんだけど、日向に顔色が悪いと言われた。関係はない。と、思うけど。  とにもかくにも、いろいろ大変だったので、一刻も早く復調してくれという願いも込めて、僕は彼女によく適当なメッセージを送っていた。『あ』でも『い』でも何でも、凛からの返信があればそれでよかった。ただ不思議なことに、日ごろ一緒にいる時は話題に困ることはないけれど、携帯を通じると何を話せばいいのかわからなくなった。そういうわけで、本日の生存確認と銘打って、僕が『あ』とだけ、送って彼女は『い』と返してくるという一連の流れを作った。  そんなやりとりが続いている時に、近況を聞いてきた理恵子さんに、『あ』『い』のやり取りをしていますというと、面倒くさい反応を示されたので、冗談だというととても怒られた。そして、残念がられた。ただ、僕がふざけられるということが彼女の身が無事であることの証明になったようだった。  ※    ようやく凛と再開することになったのは、姿を見なくなってからちょうど2週間経った日のこと。木枯らしの吹く夜だった。  僕は小腹がすいたので、近所にあるコンビニへと繰り出し、適当なものを買って店を出た。その帰り道、大学前の、既に閉じられた門扉の前を通りかかると人影があった。そのシルエットに見覚えがあったので、まさかと思い近づくと凜が立っていた。 「なに、してるの」  僕はいろいろな感情が混ざり合ったまま声をかけた。彼女はゆっくりと振り返った。とても久しぶりに目にした凛は、マフラーのせいで口元は見えなかったけれど、痩せたように見えた。顔色も悪く、ただでさえ生気のない目は、さらに虚ろだ。 「あ、お久しぶり」  少し掠れた声が、力なく僕の足元に転がった。 「久しぶりっていうか、もう、大丈夫なの・・・・・・いや、とても大丈夫には見えないんだけどさ。本当に、ただの体調不良」 「ん、そうそう。ただちょっと食欲なくて、瘦せたかなあ」 「なら、いいんだけど。で、なにしてるの、病み上がりに」 「散歩。樹のこと、誘おうか迷ってた」  言って、彼女は月を見上げた。散歩は僕も好んでいるし、月を楽しむのは風流で良いとは思うけれど、どちらも今の彼女がすべきことではない。 「帰りなさい。まだ地下鉄もいっぱいある」 「いやいや、付き合ってよ」  青白い肌、やつれた顔、どこへ行くつもりかと悪趣味な冗談を思いついてしまう。 「いや、ほんとに、悪化するって。ほら、帰りなさい」 「えー、つまんない」 「そんな駄々こねて、どうしたのさ」 「べっつにー、気分なだけ」 「あのね」  説教をしようと息を吸うと、風が吹いた。そして僕の鼻は、今この場にあるはずのない、あってはいけない匂いをとらえた。 「・・・・・・凜、まさかとは思うけど、酒、飲んだ?」 「あ、ばれた」  言いたいことが噴火のように奥底から湧き上がってくる。でも今は、質問も説教も後だ。とにかく何とかして彼女を家に帰さなくてはならない。 「帰れ」 「なーんだよ。ノリ悪いなあ。てかさ、実は、もう寒くて動けないんだよね」  へらへらとふざけた態度に、つい病気を患って弱っている人間だということを忘れて、怒りをぶつけそうになる。必死にこらえて、説得を試みる。 「とにかく家に」 「うん、家に。あ、じゃあさ、樹の家に入れてよ」  完全に意表を突かれた提案に、僕は青白い凛の顔を見つめたまま絶句する。驚きによって、体内を満たししていた怒りが霧散していく。 「終電まで、体あっためさせてよ。そうしたら、大人しく帰るからさ」 「・・・・・・いや、さすがにそれは」 「お願い。私たち、友達でしょ」  友達。今まで幾度となく使ってきた言葉。  時にはわがままを通すために。時には相手を思いやるために。時には戯れのために。 「それは、そうだけど」 「決まりね」 「いや、駄目だって。散らかってるし」 「いいって、気にしないから。それとも、私をここで凍死させるの?」  こういう時の凜は強く、僕はすこぶる弱い。黙り込んだ僕に、勝利の表情を浮かべた凜。それから僕は手を引かれて、二人、家に向かった。  いざ扉の前まで来てしまえば、僕もいよいよ諦める気になって、大きくため息をついて鍵を開けた。 「おじゃましますよっと。なーんだ、全然散らかってないじゃん」 「僕の基準では、散らかっているんだ」 「ああ、そういのあるよね」  おそらく適当であろう返答。彼女は上着を脱ぎ、リュックをおいてリビングのソファに座った。服装は季節にあった暖かそうなものだったので安心する。凛はきょろきょろとあたりを見回しているけれど、特に見るようなものはないはずだ。見られて困るものも一つを除いて、ないはずだ。 「寝室には入らないように」  釘を刺し、僕は自分と凛の上着をハンガーにかけて、絨毯の上に座った。 「隣、座れば?」 「パーソナルスペース」 「広いね」 「君が狭いんだよ」 「まっさかー」  凛はいつもと変わらないようにけらけらと笑った。光の下で見ると、一層、彼女の変貌ぶりがはっきりとする。 「講義はまだしばらくこれなさそうだね」 「あー、うん。でも、あと少し休んだらちゃんと樹に会いに行くよ」 「それは良かった。大量に渡す資料があるから、覚悟しておいて」 「いらないんだけどなあ。樹に会いに行くんだよ?」  そう言いながら、ふらふらと凜は立ち上がり、壁際にあるスイッチを押して、すべての電気を消した。 「・・・・・・なぜ?」 「眩しすぎ」 「いや、これは暗すぎだろ」 「うん。ね、カーテン開けて」  言われるがまま、僕は立ち上がってカーテンを開いた。月の光が差し込む。明りとしては頼りなく、凛の顔もあまり見えなかった。 「まだ暗いな」 「でも樹、こういうの嫌いじゃないでしょ」 「まあ」  さすが、よくわかっている。記憶の方は問題ないらしい。 「こっちの方が、落ち着くよ」 「そう。それで、もう一度聞くけれど、本当に身体は本当に大丈夫なの?」 「大丈夫だよー」 「ちゃんと食べてる? ちゃんと寝てる? 友達と話してる?」 「・・・・・・食べてない。寝てない。話してない」  真面目に答えられて、来ると思っていた返しが来なかったので、僕は拍子抜けした。 「それにしても、酒を飲むなんてね。退廃的な生活にあこがれたとか? んで、それを目指してる時に身体を壊したとか?」 「退廃的、ねえ。それを決めるのは周りの人だよ。私自身がそう思っていなかったら、私にとっては退廃的じゃあない」 「なに、語りたい気分? 酒飲んで語るなんて、あるあるすぎて」  君らしくない。 「あー、お腹すいたかも。なんかない?」 「話し飛ばすなよ。一人暮らしの男がそう都合よく飯なんて用意できないよ」 「それ、なにかったの」  テーブルの上に置いたコンビニ袋を、凛は指さした。そういえば、僕は先ほどコンビニで肉まんを買っていたんだった。僕は仕方がなく袋から肉まんを取り出し、月の光をあてながら、半分に割った。大きい方を、彼女に差し出した。 「はい」 「お、くれるの?」 「うん」 「くるしゅうない」  彼女は笑って受け取った肉まんを、種を食べるハムスターのように、小さくかじった。こっそりとそれを確認してから、僕も一口食べた。 「うん、おいしい」 「この間、君と散歩した時に食べたでしょ?」 「うん」 「その時から、不覚にもはまっていてね」 「寒い時にコンビニで肉まんを買うのも、それを半分ずつ食べるのも、大きい方をくれるのも、あるある、だよね?」 「ま、そうだね」  僕は頷いた。 「夜に突然友人が押し掛けてくるのも、あるあるだよね?」 「それは・・・・・・実はそうなのかもしれないね。僕には経験がないけど」  二口で肉まんを食べ終えた僕とは対照的に、凜はゆっくりと少しずつかじって食べている。ふざけているわけではなさそうだ。もしかすると、喉が痛いのかもしれない。 「今年も、もう終わりだね」  凜が言った。 「いや、そのセリフには、まだ少し早いよ」 「早かったなあ、今年は」  僕の指摘はどこへやら、凛は続ける。 「まあ、それについては同感だね。なんだか今年は、とても早い」  柄にもなくしみじみとしていると、ぷしゅっと、炭酸が弾ける音がした。僕が驚いて凛を見ると、いつの間に手にしていたのか、缶ビールを開けていた。 「ってちょっと、何飲んでんの!」 「あー、まずっ」  凛は味を逃がすように舌を出し、顔をしかめた。 「治す気あるのかよ」 「だーからー、もう治ってるんだってば。ほらほら、樹も」  リュックからもう一本缶ビールを取り出して、差し出す。 「・・・・・・一体どうしたのさ」  なにがなんだかわらかず、僕はもう呆れるしかなかった。 「快復祝いだよ。テンション挙げてこー」 「あがらないよ、まったく。第一、ビール嫌いじゃなかったのかよ」 「嫌いだよ。でもね、今日はなんとなくビールな気分なの。ほら、がんばろー」  正直に、僕は凜のことが本当に心配だった。けれど、彼女にはまったくそれが伝わっていないようだった。お構いなしにビールを飲む彼女は、虚ろな目で月を見つめている。熱のこもっていないその視線から何か感じ取れないかと思ったけれど、何もわからなかった。 「もとは、ただお互い利があるからだったよね」 「何の話?」 「私と樹が出会った時の話。あれは、そう、桜が満開だった、あの日だよ」 「・・・・・・桜が満開? 嘘はだめだね」 「あれ、そうだっけ」 「出会いは満開の桜の下で。あるあるだけど、僕達はそうじゃなかったでしょ」 「ああ、うん。君が、私にいきなり話しかけてきたんだよね」  正気だと思っていたのが、だんだんと疑わしくなってきた。冗談という可能性もあるので、僕は缶を開けてビールを飲む。もうこうなったら、とことん付き合ってやろう。 「それも違う。逆だよ」 「ちゃんと覚えてくれてるじゃん」 「酔っぱらいに試されるなんてね」 「出会いは喫茶店の前で、橘風香って言った時の樹の顔、忘れられないなあ」  心臓が鳴る。風香の名前を聞くと、そうならずにはいられない。 「酒、もっと飲んだら?」  凜はくすくす笑った。  そう、桜は満開ではなかったけれど確かに僕達は出会った。 「五月、か。なんだか、凄く前のことに思えるねえ」 「・・・・・・五月の連休明けには、何かが起こる。これは僕の持論というか経験論なんだけども」 「へー?」   凜は小気味の良い音を立てながらビールを流し込んでいく。喉は痛くないのかもしれない。もしくは麻痺しているのか。 「今年も、起こったわけだ。君との出会いはある意味必然だったのかも」 「どうして五月の連休明けなんだろうね」 「帳尻合わせかな。ゴールデンウィークっていう幸せとの」 「うーん。それじゃあ、世の中のみんなも連休明けひどいめに遭ってるのかなあ」  多分、そんなことはない。僕は、周りの人たちと違うから。世界から、ずれているから。 「さあね、そんなことはないんじゃない」 「そっかあ。それで、次はなんだっけ。あ、そうそう、お酒を飲みに行ったね」 「あのさ、もしかして、全部振り返るつもり?」 「そうだよ」  凛はあっけらかんとしていた。 「凛は忘年会がしたかったの?」 「忘年会?」 「そういうことなら、仕方ない」  僕は立ち上がって足元に注意しながら移動して、冷蔵庫の中に残っていた缶ビールを取り出した。 「あれま大量、ビール嫌いなんじゃないの」 「迷惑な人たちが置いていったんだよ。とにかく、忘年会ならまだ飲み足りないでしょ」 「ふーん? ま、よくわかんないけど、樹もようやく乗ってきたんだね」 「そういうこと。はい、乾杯」  僕達は缶をぶつけようとして一度うまくいかず、二人で笑った。今度はちゃんとぶつけ合って、ごくごくと音を立てて飲む。 「ああ、まずいね」  僕が言うと、凜は何度も頷いた。 「これをおいしく感じるなんて、どういうことだろうね」  凜が訝しげに言った。 「まあ、そうだね。労働でも始めたら、多少おいしく感じるんじゃないかな」 「それなら私は一生感じられないね」 「さらっとすごい宣言をしないでくれるかな」 「決定事項だから、今のところ」 「じゃあ決定してないんじゃない」 「・・・・・・あれ?」 「あれ、いや、いいのか?」  僕と凜は顔を見合わせて笑う。 「でもさ、変更する可能性があるってことは決定してないかな」 「いや、やめよう。僕達この手の話を始めると長いから」 「そうだね。えっとそれで、次は、散歩だね。樹のせいで予定が決まらなくてー」 「はい、ストップ。あれは君が酔っぱらって計画を立てるのを放棄したからだよ」 「そうだっけ? 本当に?」 「・・・・・・多分」 「自信ないんじゃん」  それからも、僕と凜は出会ってから今日に至るまでの様々な記憶を振り返った。  河川敷で話して、ジュースをこぼしたこと。  雨の日に迎えに行ったこと。  勉強を一緒にしたこと。  凛が風邪をひいたこと。  ひたすら喫茶店に行ったこと。  電話をしながら、一緒にゲームをしたこと。  連絡先のことで喧嘩したこと。  紅葉狩りを教えてあげたこと。  猫を助けてあげたこと。  学園祭に一緒にいったこと。    写真を一緒に撮ったこと。  思い出を振り返り終える頃には、アルコールのせいで体が熱く、ふわふわしていた。 「なんか僕達って結局、喫茶店に行くか散歩するかばかりだね」 「うん。大冒険をした気分だったけれどふたを開けたら近所だね」  凛はけらけらと笑った。だいぶ、酔いが回っているらしい。 「まあでも、去年は家にこもってばかりだった僕としては、大冒険だった」 「あ、そうだね」 「君も?」  アルコールが、僕の背を押した。 「あーうん、ほんとーにひきこもってたからね、わたし」  理由は聞くまでもないことだろう。この世界で僕だけが、凛の言葉を理解することができた。僕と彼女は似ている。僕は出会った頃からきっと薄々感じていて、今では確信している。考え方、趣味嗜好、行動。違うところも当然あるけれど、基本的に僕達は似たようなものを選び、似たような結果を求めているのだと。 「詳しくは、訊かないでおくよ」 「そう?」  まるで話してもよさそうな反応を見せる凜に、僕は苦笑する。彼女はこういうところには疎いのだ。僕はそれも理解している。 「うん。あ、そうだ、白木さんと理恵子さんが凄く心配していたし、次、学校にきたら会いに行こうよ。白木さんはまあ、向こうから会いに来るだろうけれど」 「心配?」  凛は目を丸くした。 「うん」 「あー、そっか。うん、わかった」 「なるべき早くきなよ。それじゃないとあの二人が具合悪くなりそうだ」 「・・・・・・うん」  僕達は久しぶりの会話をたっぷりと楽しんだ。  凜は笑ったり、拗ねたり、怒ったり、彼女の言う通りそれなりに元気なようだった。僕はたった3週間程度合わなかっただけだというのに、やりとりに懐かしさを感じていた。それはとても心地の良いものだったけれど、でも、懐かしさを感じるたびに頭は騒ぎ出し、警鐘のように頭痛がして、僕を苦しめた。もしかすると、僕も風邪を引いたのかもしれないと思った。久しぶりにアルコールを口にしたものだから、そのせいもあるのかもしれない。  話しながら一方で頭痛に苛まれた僕は、一度トイレに行くことにした。おぼつかない足取りに自分で驚きつつ、トイレに入って座った。一息つくと、眠気がやってきた。頭も体も重い。本当に風邪を引いたのだろうかと、不安になった。数分休憩したところで、意味もなく水を流し、トイレを出た。するとリビングに凜の姿がなく、寝室の扉が開いていた。僕はすぐ日記のことが頭をよぎり、慌てて部屋に飛び込んだ。 「ちょっと、こっちは・・・・・・!」  凜は僕のベッドに仰向けに転がり、寝息を立てていた。その光景にもちろん驚いたけれど、僕はそれよりも日記のことが気になった。机の中を見ると、日記はそのまま置いてあった。凜が目にしたような形跡はなかった。僕は安心した後、改めて現状に呆然とする。  起こして家に帰そうと思い、何度か呼びかける。しかし凜は一向に目を覚まさず、ひたすら眠っていた。途方に暮れた僕は、いろいろ考えるのも面倒になってきたので、来客用の掛け布団をクローゼットから取り出し、ソファで眠ることした。ささやかな仕返しとして、アラームをセットした時計を、凜の顔のすぐ傍に置いてから僕はソファに寝転がった。昼寝程度なら問題ないけれど、一日の疲れをとるには少し狭い。起きたらどんな文句を言ってやろうかと思っているうち、僕の意識は消えた。

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