雑踏とした渋谷駅から緑色のラインの山手線に乗って、ぐるっと周って日暮里駅で降りる。そこから常磐線快速に乗り換えて北千住まで揺れて、さらに東武線快速で十五分ほど北へ行けば、僕の家の最寄駅である新越谷駅へと到着する。そこから十分ほど歩けば、僕が一人暮らししていたボロ家に到着する。 しかし、それはおよそ一年前までの帰り道だった。今、僕が帰る家は別のところにある。渋谷駅から山手線に乗って二つ進んだところにある代々木駅から総武線に乗り換え、二つほど東京駅方面に進むだけだ。以前住んでいた僕の実家と比べると、渋谷みたいな大都会でも散歩感覚で気軽に行くことができる便利な街だ。 そんな僕らのホームタウンがある信濃町駅から少し歩いたところに、優璃が借りている家がある。十五階建マンションの最上階で、窓の外からは東京の煌めきを一望できる高級物件だった。部屋の間取りも僕の実家のアパートとは違って格段に広く、そして何よりも、どこから見ても高所得者しか住めないような、恐れ多い外観をしている。例えばドアひとつとっても、色、艶、ドアノブの光沢まで僕の家とは雲泥の差があり、まるでレベルが違う。そこが今の僕の住処だった。 優璃は渋谷から僕らの家まで帰る電車の暖房の風が居心地のよさを引き出して、夢の世界へ引き込むように襲ってきた睡魔に負けてウトウトしてしまったからか、電車を降りた後もどこか意識が上の空だった。 「電車ってさ、運よく椅子に座れちゃうと、途端に幸せな空間に変わるんだよね。あのちょうどいい固さをしたクッションのせいかな」 「そうかもね」 帰宅時、多くの人が行き交っているホームの片隅で、僕よりも少しだけ小さな身体をしている優璃が、僕よりも大きくなるくらい一生懸命身体を伸ばした。そして一瞬浮いたキャップを再び頭に沈めた。 「今日は特に居心地が良かったよね。暖房も効いていたから、僕もウトウトしちゃったよ」 実際、僕もかなりの眠気に襲われていて、電車の中ではいつも怠ることのない読書がまるで集中できなかった。 「今日はたくさん歩いたからね。身体が疲れちゃったのかな」 「そうだね。とりあえず帰ろうか」
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