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 みづきさんの声が頭にひびく。 “まさし”は、確かに父さんの名前だけど。 なんでみづきさんが、私の父さんの名前を知ってるの? 私の困惑をよんでみづきさんがこたえてくれた。 『正志は、わたしの婚約者だった人だ』 「え?じゃあ。あれ?え?どういうこと?」 『“事件”のあと、おまえの母親と結婚したんだな。よかった』 「え?よかったって。そんな、ひどいじゃないですか。婚約者がころ、ひどい目にあったっていうのに、違う人となんて」 『だが、わたしとはできないだろう』 「そうだけど。でも」 『結婚していなければ、おまえは今ここにいないことになるが?』 「う……」 この間、時間にして数秒。 私は花を手にしたまま、はた目にはポカーンと立っているように見えただろう。 実際そう見えたと、あとから父さんも言っていた。 『正志が今日ここにいるということは、わたしの本体もここにいるということか』 その言葉に、私はここに来た目的を思い出し、墓参りの準備を始めた。    父さんの視線を感じながら、花筒に花を挿し足して水を注ぐ。 お墓の前にしゃがんで、手を合わせる。 『まさか、ほんとに自分の墓に参ることになるとはな』 みづきさんが苦笑まじりに言う。 私は返す言葉も、かける言葉も思いつかずただ黙って手を合わせた。 ??ふと、妙な感覚をおぼえた。 すうっとするような、身体の中を何かが流れるような微かな感覚。 「みづきさん?」 『どうやら、正志のことが“心残り”だったようだな』 「え?もしかして……じょうぶ?」 後半は口の中に消えた。 『経験はないが、そういう気がする』 「待って。まだだめ」 『だめと言われても。いったい何をどうしろと?』 「とうさんと、話して」 『それは無理だろう』 「桜の木の時みたいに、やってみて。できるんでしょう?」 『やることは可能だが、信じると思うか?』 「それは、あとから私が説明する!“今から!”と言ったら、やってくださいよ?」 そうみづきさんに言った私は立ち上がり、いぶかしがる顔で私を見ている父さんの方を向いて言った。    「とうさんは、“斉藤みづきさん”っていう人の婚約者だったの?」 「みづき……瑞希は、どうして彼女のことを知っているんだ?母さんから聞いたのか?」 「今は、私が聞いてるの。父さんお願い。時間があまりないの。私が聞いたことに答えて。父さんは、みづきさんの婚約者だったの?」 「ああ。母さんと結婚する前に、婚約していた女性だ。不幸な事故で……」 「その話は、後にして。父さん、信じてもらえないだろうけど、みづきさんは、今私の中にいるの。だから父さん、みづきさんと話して!“今から!”」   続

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