『いいかげん諦めて、信じるんだ』 声が聞こえた。 『おまえの頭の中だけで会話してるのを、もう忘れてるのか?』 そうだった。 声に出さずに会話してるから、だれかが聞いている可能性ってなかったんだった。 「わすれてました。だけど、ひょうい?私の中に入るってどうやって?」 『わたしには、実体がないからな』 「じったい?」 『生身の身体をもっていないということだ。ひらたくいえば魂の状態で生きている』 「もしかして、幽霊さんですか?」 私はおそるおそるたずねた。 『幽霊ではない』 「だって、魂だけってことは、死……亡くなっているってことでしょう?」 『死んでいるのは事実だ。葬儀もすんでいるはず』 「じゃあ、やっぱり幽霊さんじゃ?」 『そうだな……見えるのが幽霊で、見えないのが霊。これでいいか?』 わかるような、わからないような。 でも、“誰かが頭の中にいるらしい”ことは事実で。 「あ、でも、じゃあ。私って大怪我してたんですよね?」 『ああ。怪我して意識も失ってたから、その隙に中に入れたんだが』 「その……怪我って、どうやって治したんですか?」 『おまえの脳細胞を総動員させて、あらゆる能力を最大限に発動できるようにした』 「へ??」 『それと同時に、おまえの生体エナジーをわたしの生体エナジーで増強させて、細胞の再生スピードを加速させ……』 いや、まじにSFになってきてるし。 そんなことが可能なの? 『おまえが、今五体満足な身体で生きていることが、可能なことの証明だ』 私自身が証明だと言われても。 「じゃあ、ここはどこですか?」 『おまえが落ちた場所が、ここだ。おまえと一緒に落ちてきた荷物がそこにある』 私はバッグを手にして、中を確認した。 財布にスマホ、お茶。 なくなっているものは、ない。 でも。 スマホの画面には、見事に亀裂が入っていた。 「ええ!!割れてる!じゃあ、落ちたのってほんとなんだ」 思わず口走る。 「せっかくなら、スマホも直してくれたらよかったのに」 無理な話とわかっていても、つい言ってしまう。 バイト、クビになって金欠なのに修理代なんて出せないよ。 『すまほ、というのはなんだ?』 声が聞こえた。 「スマホ、知らないの?これだよ」 私の中にいるのなら、見えてるものは同じはずだ。 『それはなんだ?大きさは手帳くらいだが』 「スマホは、スマートフォンの略で、母さんの頃はケータイ、携帯電話って言ってたらしいけど」 『携帯電話?知ってはいるが、高価なものだろう?金持ちしか買えないし、大きくて重いと聞いたが』 「そんなに大きくないよ。ポケットに入るくらいだし、ほとんどの人がもってるもん。友達なんて3台くらい持ってるって言ってた」 『そんなに、みんなが贅沢できるようになってるのか?バブルはまだ続いているのか』 続
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