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 リビングに行くと、ちょうど父さんが家に入ってきたところだった。 「おかえりなさい。今日は早かったのね」 母さんが父さんに言ってる声が聞こえた。 「ああ。今日は“あの日”だったから」 「あ、そういえばそうでしたね。そうそう、さっき瑞希も帰ってきたんですよ」 「ああ。一緒に帰ってきたからな」 「あら、珍しいこと」 「瑞希は?まだ部屋か?」 「そうだと思いますけど?瑞希になにかご用事?」 「瑞希にというか……」 私は冷蔵庫からペットボトルのコーヒーを取りだし、3つのグラスに注いでリビングのテーブルに置いた。 「あらどうしたの?瑞希がお茶を入れてくれるなんて、珍しいこと」 「父さんと約束したから。帰ってから話すって」 「あら?そうなの?母さんも聞いたがいい話?」 「うん」 「今日、“いつもの場所”で瑞希に会ったんだ」 「あの場所ですか?そんなはずないでしょう?瑞希はあそこは知らないはずですし」 「だから、その話をしてもらうんだ。そうだな?瑞希」 「うん」 私は、グラスのコーヒーをひと口飲んで話し始めた。    「えっと。もしかしたら信じてもらえないかもしれないけれど。最初に言っておくと、全部本当のことだから。夢に見たのでも、作り話でもないから」 そう前置きして、私は“みづきさん”との出会いから話し始めた。 心配をかけたくなくて、大けがしたことは伏せて脳震盪のうしんとうを起こしたことにしておいたけど。 でも、そのほかのことは思い出せる限り、すべて伝えた。 父さんは、座ってじっと話を聞いてくれた。 表情は、ほとんど変わらなかったようだ。 母さんは、目を丸くしたり、手を口に当てたりとせわしなかった。 全てを話し終わった私は、”これが証拠”とブローチをテーブルの上に置いた。 ブローチを見た途端、父さんが目をぎゅっとつぶり、天井をあおいだ。 しばらくそのままの姿勢でいた後、私の顔を見て絞り出すような声で言った。 「瑞希が、見つけてくれたのか」 「うん。というか私とみづきさんとで」 「そうか。あの時も周囲を探したんだが、小さいものだから見つけられなくて。ずっと気になっていたんだ」 「じゃあ、これは父さんに渡すね」 「どういうことだ?」 「みづきさんは、私が持ってて構わないって言ってたけど、私は遺品として渡せる人と会えるまで預かってるだけのつもりだったから。で、みづきさんの遺品として渡せる人は、父さんかなって思って。みづきさんのご両親ももうお墓に入られてるようだったし」 父さんは無言でブローチを手に取り、手のひらで包んでそのまま拝むような形で額に当てた。 しばらくして手を下ろし、手の中のブローチを私の前に置いた。 「“みづきの遺品”は受け取った。そしてこれは“みづきの遺言”として、瑞希、お前が持っていなさい」   続

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