受験戦争も終わりに近づいてきた、中学校最後の三学期。私立高校が本命の人は、進路が決定して、お祭り騒ぎをしている一方で、公立高校が本命の人は試験が卒業式の前日なので、まだまだ必死に勉強をしている。あたしは後者で、裕介と晴香ちゃんは前者だった。あたしの為に、放課後は図書室で裕介と晴香ちゃんはあたしの勉強を見てくれていた。 「あー分かんねー」 「ほらほら、諦めるな!もう少しなんだから」 「渚ちゃん、頑張ってー」 このやり取りが三十分に一回のペースで始まる。図書室の机には参考書と過去問題集、裕介お手製の解説ノートが散らばっている。 「少し休憩」 あたしは腕を上に伸ばした。呼吸を止めて一気に吐き出すのがとても気持ちいい。首をゆっくり回すと、ポキポキと音が鳴る、あの感触も気持ちいい。  問題集は最後のページまであと少しのところだった。あたしが小休止している間に、裕介と晴香ちゃんは、手分けしてあたしの解答に採点していく。丸を描く音の数が多ければ自信が持てるし、跳ねる音の数が連続すると、不安になっていく。 「はい、採点終わり。八五点だね」 裕介は、まあまあかなって表情で解答用紙を渡した。 「七二点」 晴香ちゃんは何も表情を変えず、解答用紙を渡した。あたしも分かってる。この結果じゃ合否も微妙なラインだって。だから二人は、敢えてなにも言わなかったのだろう。 「どうする?まだ過去問題続ける?」 今、この結果であたしは『お腹いっぱい』だったので、今日はこれまでにした。  春が近づいているとはいえ、外へ出ると息が白くなるほど寒かった。例年ならきっと、桜はいつ咲くのだろうなんて呑気なことを言っているのだが・・・。 「渚ちゃんの進路が決まったらさ」 あたしと裕介は晴香ちゃんを見つめる。 「どこか出かけようよ。卒業旅行も兼ねてさ」 晴香ちゃんはいつもの笑顔であたしに言うと、少し肌寒い風が治まったよう気がした。 「それいいね!」 裕介が提案に乗る。 「でも、もし腰越がダメだった時は、慰労会ということで」 あたしは無言で裕介にどついた。 ◇ 「結局さ、渚ちゃんも希望通りの進路になったのに、どこにも出かけられなかったよね」 空になったジュースの缶を振りながら、ため息とともに晴香ちゃんは言う。結局、卒業式が終わってからは、それぞれ入学の準備などでなかなか時間が合わず、卒業旅行は計画だけでお流れになってしまった。 「卒業式以来、石上くんに会ってないから、どうしてるのかな」 晴香ちゃんは、まるで恋人が海外にいるような口調で空を見上げる。夏なのに星空がきれいに見える。 「・・・あのね。晴香ちゃん」 晴香ちゃんが何かを言い掛けようとしたところに、あたしが遮るような感じになった。それでも晴香ちゃんは、あたしを見て首を傾げながら、次に出てくる言葉を待っていた。 「好きだったの」 晴香ちゃんは何を言っているのか分からない顔をした。 「裕介。石上裕介のこと」 生温い風が二人の間をよぎる。 「知ってたよ」 そして、晴香ちゃんは穏やかな顔をした。今度は、あたしが晴香ちゃんの言葉に理解できなかった。 「なんで知ってるの?って顔してるけど、渚ちゃんって結構、言葉や行動に出るから分かりやすかったよ。けれど、どこかできっと私に気を遣っているんだなって思ってた。先に石上くんが好きって言ったの私だし。でも、ひょっとしたら私より先に好きになっていたかもしれないけど。〝気持ち〟はね」 晴香ちゃんはとても鋭い子だった。そして、今にも心が折れそうな顔で、泣きそうな顔をしていた。 「なんで・・・。なんで、晴香ちゃんが泣きそうな顔をしてるのさ」 あたしの声は震えていた。心を見抜かれたこと?同じ人を好きになってしまったこと?分からないけど、あたしも泣き出しそうだった。 「どうして、同じ人を好きになっちゃったんだろう」 そのあとしばらく、二人で泣いた。互いに本心をぶつけた後の安心感か、それとも悔しさかそれとも両方か。  そうだ、あたしがドイツに行く前に、裕介に気持ちを聞いてみよう。  仮に晴香ちゃんと裕介が両思いで、自分が惨めな思いをするかもしれない。けど、それだって構わない。彼の気持ちをただ知りたい。それだけだった。そして、あたしがドイツに出発する前、裕介に告白どころか、勢い余ってキスまでしてしまった・・・。今思うと結構恥ずかしい。 ◇  井の頭線はもうすぐ明大前の駅に到着しようとして減速を始める。渋谷の街を歩き回って疲れ果てた晴香が僕の肩に身を委ねながら眠っている。 「晴香、起きて。もうすぐ明大前だから」 僕は晴香を優しく揺さぶると目を覚ました。電車のドアが開くと少し爽やかな空気が入り込んで、夏の終わりが一歩ずつ近づいてきていることを感じさせる。  井の頭線のホームから京王本線のホームへ、まだ寝ぼけている様子の晴香が階段を上る。その姿がどこか危なっかしくて心配になる。当然、今日買ったものと晴香の荷物は全部僕が持っているわけで、彼女は手ぶらだから転んでも何も壊す物はないのだけれど。 「ああ、ごめん。私持つよ」 やっと本格的に目覚めた晴香は、自分のカバンを僕から取る。・・・てか、自分のカバンだけかよ。 「どうせ次の電車でも寝るだろうから、僕がそのまま持ってるよ」 「もう大丈夫。目覚めスッキリだから」 晴香は短時間の睡眠で元気を取り戻していた。スマホの高速充電かよ。  僕と晴香は、年明けに一緒に暮らそうと考えていた。もちろんお互いの両親は即答でOKだった。恋人として付き合った日は浅くても、それよりもずっと前から家族含めて互いを知っていたわけだし。反対される理由はどこにもなかった。まあ、由貴は少し不服そうな顔をしていたが。 「ねえ裕介くん。帰る前に、少し寄りたいところがあるんだけど、いい?」 高速充電で百パーセントになった姫は、荷物を大量に持った僕に追い打ちをかける。けれど、その議案を否決すれば、怒るか泣くかのどちらかで、これが結構面倒くさい。だから僕は、いやな顔をせずにうん。と頷く。もっと晴香と一緒に居たいという本音もあるのだがね。  改札を抜けると、あのジメジメした夜の空気はなく。心地いい感じだった。晴香は寄りたい所があるって言っていたけれど、向かう方向はお互いの家の方向。もし、晴香の家だったらわざわざ『寄りたい所』なんて言わないだろうし、自分の発言を忘れているようにも思えない。謎は深まるばかりだ。  それから、晴香は何も言わないまま、僕の手を掴んで歩き続ける。晴香の顔を見ると晴香は振り向いて僕ににこっとする。 「着いたよ」 そこに広がる風景は、いつも見慣れたあの公園だった。晴香があの街灯のベンチに座ると隣のあいたスペースにトントンと手を叩いて僕を誘導する。 「寄りたい所って・・・」 「うん。ここ」 いつも見慣れているはずの公園なのに、晴香がそこにいるだけでなぜか、懐かしく感じる。そしてそれと同時に、あの中学の時の思い出が、少しずつ、蘇ってくる。 「そういえばさ、中学の時、私ここで泣いてたんだよね。あれ、なんの時だっけ?」 本当に忘れているのか、意地悪で僕に言わせようとしているのかわからない。 「楽器が上手くならないとか、先生に怒られたとか、そんな話だったような」 僕は敢えて、濁らせるように言った。本当は全部鮮明に憶えているのだが。 「そうそう。あの時部活で先生にメッチャ怒られて、ものすごく落ち込んで・・・。どうしようもなくなって、ここへ来て泣いていたら私の前に王子様が現れて」 晴香は自分で言って恥ずかしくなったのだろう。その先の言葉が出てこなかった。 「・・・恥ずかしいだろ」 僕は小さくつぶやくと、晴香は僕の肩に体を預けた。 「ありがとう」 鈴虫の鳴き声は次第に大きくなり、爽やかな秋の風が僕らを優しく包み込んでいる。  ずっと一緒に居たい。  付き合いたての男女なら誰もが思う気持ちだろう。今この時、晴香も同じことを思ってくれているのだろうか。  公園の時計は夜十時を回ろうとしていた。あれからこの公園のベンチにどれくらい居ただろうか。晴香は僕に寄り添ったまま何も話さずにいる。もちろん眠っているわけでもない。 「そろそろ帰ろっか」 僕が立ち上がろうとする。 「イヤ。もう少しだけこのまま」 僕の袖を引っ張る。このやり取りが十回以上続き、気づけば日付は変わっていた。 「兄さん。兄さんってば!」 とある休日の朝。僕は由貴に起こされた。 「お、おはよう。可愛いわが妹よ」 「あーはいはい。それより晴香さんが来てるよ」 あんなに照れ屋だった可愛い妹は、女子高生になると、こんなにも塩対応になってしまうのか・・・。兄としては悲しいよホント。ん?今、晴香が来てるって言わなかったか??僕は慌てて、玄関に向かう。 「おはよう。来ちゃった」 天使のような笑顔で彼女はそこに立っていた。 「あれ、今日。どっか行くって約束してたっけ?」 連日の激務で疲れ果てたアタマで必死に思い出す。 「ううん。してないよ。ただ裕介くんの家に遊びに来ただけ」 僕は胸を撫でおろした。よかった・・・。 「なぁ~んだ。兄さん、彼女とのデートをすっぽかしたのかと思ったのに。残念」 由貴はつまらなそうに唇を尖らせた。てか、残念ってなんだよ。 「まあまあ。、由貴ちゃんもそう言わないで。お邪魔します」 晴香は、リビングに居る親に丁寧にあいさつをして僕の部屋に入った。 「あのね。今度一緒に住む所なんだけど」 晴香はそう言いながら、大きなカバンからいくつかの物件資料を取り出す。いつの間にこんなに調べていたのか。 「こんなに・・・。これ、一人で調べたの?」 「う、うん。まぁ・・・。実は、親戚が不動産屋をやっていて、相談したらいろいろ探してくれて。お家賃もこの表示価格よりも割り引いてくれるって」 和田塚晴香という人物は一体何者なんだ。親戚が飲食店経営者だったり、不動産屋だったり・・・。 「それでね。私はここが良いと思うんだけど、裕介くんはどう?」 数ある資料の中から、駅近の2LDKの賃貸マンションの資料を指さす。さすがに都内の賃貸マンションで駅近だから家賃は十万オーバー。いくら親戚割引があったとしても、僕の収入からはさすがにここまでの家賃は出せない。 「ここなら家賃半額でいいって」 僕は晴香の言葉に耳を疑った。 「まさか、事故物件・・・」 「失敬な!」 後に話を聞くと、どうやらこの物件のオーナーさんは、晴香の親戚の人と同級生らしく、友達の姪っ子ならタダでも構わないと言っていたらしいのだが、『社会人としての勉強』とせめて半額は払わせるって話になったようだ。無関係の僕にとっては至れり尽くせりなわけで。でも、申し訳ない気持ちにもなる。 「それと、一つ条件があって・・・」 晴香はそう言うと、下を向いてモジモジさせた。 「・・・っこん」 僕は本当に最初の言葉が聞き取れなくて、聞き返した。 「だから。結婚!結婚前提のお付き合いで入居するなら良いよって!」 和田塚晴香さん。今日一番の大声で、盗み聞きをしていた由貴を凍らす。そして晴香本人は今にも沸騰しそうなほど顔が赤くなっていた。  新居が決まれば、後の事に関しての段取りは思っている以上に早く進んだ。電気、ガスに関しては僕が契約している携帯電話会社のプランを見直すだけで、支払いがひとまとめにできるし、インターネットとかケーブルテレビとかは元々そこの物件に無料で使えるように設備が整っていた。引っ越しは、当初の予定より早く、十月の下旬に決まった。その方が引っ越し業者もオフシーズンらしく、安く引っ越し作業ができるそうだ。とは言っても、家電や家具は新しく買うわけだし、二人ともそんなに多い荷物でもない。やろうと思えば二トンくらいのトラックを借りてきて、自分たちでもやれる程度だが、荷造りが面倒だという晴香の為にワザワザ引っ越し業者を使った。 「兄さん」 引っ越しの段ボールだらけの僕の部屋を見渡した由貴が、いままでにないほど寂しそうな顔をしていると、由貴の後ろからマカロンがニャーと鳴く。 「なんか、不思議な感じだよ。いつもこの部屋に兄さんがいるのが当たり前だったからね。この引っ越しの段ボールを見ると、もう、ここに〝当たり前〟が無くなっちゃうんだなって」 由貴の声は震えていた。寂しくて今にも泣きそうな顔を一生懸命に隠して、無理やり笑顔を作ろうとして、それを誤魔化すようにマカロンを撫でて。 「寂しいかい?」 何気ない質問のつもりだった。でもそれが、由貴が堪えていたものを一気に放出してしまったようで、床には大きな涙の粒が一つずつ落ちていく。 「当たり前でしょ!いつもこの部屋に兄さんが居たから、私は安心できたし、悲しい時も寂しい時も大丈夫だった。私の・・・。私の心の支えだったのよ兄さんは!」 他にも言いたいことはあったのかもしれないが、泣くことに全力で、ただ言葉は出ず、鳴き声だけを部屋中に響かせていた。 「何年振りだろう。こうやって一緒に寝るの。小学校の一年生の時以来かな」 僕の狭いベッドに社会人の兄と高校生の妹が仲良く寝転ぶ。大泣きしてスッキリした由貴は今夜は一緒に寝ようと言ってきて、今、この状況になっている。 「ああ、あの時たしか、由貴はおねしょしたよね」 その瞬間、わき腹を蹴られた。地味に痛い。 「それを言わないでよ。私の人生で書き消したい恥ずかしい歴史なんだから」 その時から、由貴は恥ずかしくなったらしく、僕と一緒に寝ることはなくなった。そんなことがあったのはつい最近のことのような気がしたけど、いつの間にかこんなにも時間が経っていたんだ。 「今日は兄さんのこと離さないからね。だって、これからは晴香さんのものになっちゃうんだから。今夜だけは私の、私の大好きな兄さんは独り占め」 ああ、妹という生き物はなんでこんなに可愛いんだ。 「おねしょするなよ」 さっきの倍近い強さでまた僕のわき腹を蹴った。だけど、そのあとすぐにマカロンが入ってきて、結局、由貴の独り占め計画は失敗に終わった。  秋晴れか清々しい小春日和の日曜日。引っ越しの日がやってきた。まず最初に僕の家に引っ越しのトラックが来て、僕の荷物を積み込む。そのあと晴香の家に行って晴香の荷物を積み込む。 「これでウチは全部です」 「分かりました。それでは和田塚様のお宅へ向かいますね」 引っ越し業者の爽やか系のお兄さんが感じよく会釈をする。私、ああいう人タイプかもとわけの分からないことを言っている妹。 「じゃあ、僕も行くね」 「うん。気を付けて」 由貴の言葉は堂々としていた。あの日の夜、いっぱい泣いて、一緒に寝て由貴なりに踏ん切りがついたらしく、寂しい表情もしなくなった。とは言っても、この家からそんなに離れてはいないのだけれど。たぶん、いつでも遊びに行けるとか、親に怒られた時の避難所が出来たとか、そんなことしか考えていないのだろう。  僕は歩いて晴香の家に向かう。あの公園の前の交差点を曲がって坂道を少し上がったところに晴香の家はある。道中が狭いため、トラックは一度広い通りに出てから晴香の家に向かうような感じなので、僕が歩いて行ったとしても晴香の家に先に着く。晴香にこっちは積み終わったと連絡するとバナナのスタンプだけの返事がきた。とりあえず、起きているのは分かった。 「おはよう。裕介くん」 玄関で晴香が笑顔で出迎えてくれた。可愛い。結婚してくれ。いや、する予定なんだけど。  晴香の家にあがると、ご両親がリビングに居て、僕は軽く挨拶をした。当然の話だが、結婚前提で同棲するのは、ご両親も承諾済み。別に緊張する必要はなかった。  和田塚家では昨夜、久々に家族で外食したそうだ。最初は、横浜辺りのオシャレなレストランにしようかという話もあったみたいだが、結局あの『オリエンタルハウス』に満場一致で決定したらしい。店に入れば、オーナーがテンション高く迎え入れてくれて、今日はお客さんがいないからと店の玄関に『本日貸し切り』のプレートを掲げて賑やかなディナーだったそうだ。  晴香の部屋から段ボールの山を一つずつ玄関に下ろしていく。女の子だからなのかどうか分からないけど、僕より荷物が多い。和田塚家総出での作業。やがて、トラックが入ってきて、後の荷物は全部引っ越し屋のお兄さんに任せた。 「裕介君」 僕を呼んだのは、晴香のお父さんだった。僕はお父さんに手招きされるがまま、奥の応接室みたいな部屋に通された。何か怒られるのではないかと、身構える。 「いやいや、待たせたね。ブラックでも大丈夫?」 そう言ってお父さんはコーヒーを二つもって部屋に入ってきた。 「まぁ、そう身構えないでくれ。ただ、私は裕介君にお礼が言いたかったんだよ。言えるとしたらこのタイミングかなって」 「いや、僕はお父さんに感謝されることなんて何もしていないですよ」 お世辞でも謙虚でもない。感謝される記憶がない。すると、お父さんは窓から空を見上げて、一呼吸置く。 「うちの娘はね。どうも泣き虫で。嬉しいことがあっても泣いて、私や妻に少し怒られただけでも大泣きして。このまま大きくなってもこんな調子だったらとすごく心配で・・・。あれは晴香が中学生の時かな。夜遅くに大泣きしてそれは女の子なのにヒドイ顔をして妻と一緒に帰ってきて私は慌てたよ。いじめにでもあったんじゃないかって。その時妻が全部説明してくれて、裕介君がずっと傍に居て晴香の事を慰めてくれたって。私の知らないところで、娘はいつの間にか自分自身の心の支えになってくれる人が出来たんだ思ったら嬉しくなっちゃって。裕介君にとっては、なんでもない事で当たり前のことだったかもしれないけど、私は本当に心の底から裕介君に感謝してる」 お父さんの声が少しずつ掠れて震えてきている。僕は何も返せずにただ、お父さんの言葉を一つずつ丁寧に聞き取る。 「なぁ、裕介君よ」 「は、はいっ!」 ヘンに声が裏返って、背筋を伸ばす。 「結婚前提だなんて、そんな曖昧な言葉じゃなくて、うちの娘と結婚を考えてくれないか?」 振り向いたお父さんの目は本気だった。ただ僕は戸惑うだけで、上手く返事ができない。いざ、改まって結婚と言われると心の準備が・・・。 「ああ、ごめん。焦らせちゃったね。ゆっくりでいいから本気で考えて欲しい。ただ、私は裕介君以外、晴香の心の支えになってくれる人は居ないと思っている。それだけは間違いない」 「裕介くーん」 晴香が僕を呼ぶ声で、この話は終わりになった。 「ねえ裕介くん。さっきお父さんと何話してたの?」 「娘の自慢話・・・かな」 「やだお父さん、サイテー」 お父さんと話したことは絶対に秘密。まあいつか、話す時が来るだろう。  トラックにすべての荷物が積み終わり、トラックが走り去っていく。僕たちも晴香のご両親に手を振り、晴香の家を後にする。二人、仲良く手を繋いで・・・。

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