精神的S
01・拠り所(10)

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「なつみだって、スタイルいいじゃない」 「まぁ、スタイルにはそれなりに自信を持ってるけど、顔がね…苺ともそんな内容で言い合いしたし。私はスタイルで、苺は顔が良いって」 「そんな、悲観的にならなくてもいいと思うけど。私の体とか顔が整ってるのは商品だから大切にしてるだけなんだから。自分の体を商品として差し出さなくていい人は、自然体が一番だと思うわ」 「でも、モテるでしょ?」 「お客さんは付くけど、ただそれだけ。変に均整が取れすぎてると、体だけが目的で男性が吸いついてくるみたいで恐いのよ」 「そうなんだ、それはそれで大変だね」 「こう見えて、私って彼氏いない歴が二十八年なのよ」  彼氏いない歴が二十八年と、自分の年齢と同じ年数を伝える。  ミシオに彼氏がいないのは、風俗嬢という職業が邪魔をしているのではなく、ミシオの基本的な性格にも問題があるようだ。  有料駐車場に着くと、なつみはミシオの後ろを金魚の糞のように付いていき、ミシオが車に乗ると助手席に乗せてもらった。  かなりの稼ぎがあるミシオだが、車は中古の安物である。  緩やかに車が走り始める。お酒を飲んだせいか、普段は車酔いをしない体質のなつみが、少し気分が優れなくなってくる。 「窓開けてもいいかな? 少し、風に当たりたい」 「いいけど、大丈夫?」  ミシオは、運転に集中し、前から視線を反らさずに問いかけた。なつみの姿が見れないから、体調をかなり崩しているのではないかと不安に思っているようだ。 「大丈夫、そんなにお酒は飲んでないから」 「だから、心配なんじゃない」  もっともな意見だった。  お酒を飲み酔いが回り、体調を崩しているのなら原因が明白なのでそんなに心配をしないですむが、お酒に原因がないのなら、心配もひとしおになってしまう。 「きっと、食べ過ぎだよ」  安心させる為に、適当に理由を付けて窓を開ける。窓から入り込んでくる風は冷たく、今は心地良く感じる。  歩いている時は肌寒いと感じ、うざったく思えていたのに、今はこの夜風を心地良く受け入れてしまうのだから勝手なものである。  夜風に当たりながら、ほろ酔い気分で目を閉じると、不思議な感覚に見舞われた。気持ち悪いような、気持ちが良いような微妙な感覚。まるで、自分の体の何処にも中心がなくなったかのような、不安定さである。  そんな不思議な感覚の中で、出来るのは考える事だけだった。  結婚していて、達之を嫌悪感を抱くほど嫌っていない…仲を修復したいと思っている心もあるのだから、やはり好きなのかもしれない。そんな曖昧な関係で、金銭面が裕福なセックスレスの夫婦。  生まれてから一人も恋人が出来た事がなく、職業として沢山の男性と性的な行為を行なっている、やはり金銭面が裕福な、自虐的な女性。  工場で働き、同い年の恋人と同棲している、金銭面が裕福とは言えない女性。  そこまで考えて、なつみは目を開けた。ミシオはなつみが眠っていると思ったのか、運転だけに集中している様子だ。 「私達って、誰が一番幸せなのかな?」  無意識の内に、呟いていた。独り言を言った試しのないなつみは、独り言を言うなんて恥ずかしいと、酔って赤ら顔になっているにもかかわらず、更に顔が赤になったのではないかと不安になるほど、体が熱くなった。 「幸せ、不幸せに、優劣はないよ」  ミシオは、相変わらず前を向きながら運転している。ミシオが脇見運転をしているところは一度も見た事がない。 「そうかな?」 「そう思わないと、生きていけないでしょ」 「そうだね」  ミシオも同じ考えをした事があるのかもしれない。そんな中、唯一出せた答えも、なつみと同じだったのかもしれない。  一番幸せなのは誰だか分からないけれど、一番幸せなのは、自分ではないと。 「明日も、仕事だね」  手持ちぶたさを誤魔化す為に、携帯を操りながらそう言葉を零す。 「私の取り柄は仕事だけだから、頑張らないと」 「それは、私も同じだよ」 「仕事だけが取り柄って、悲しいね」 「うん」  幸せ、不幸せに優劣はない。そう結論を付けても、私達は思ってしまう。  幸せ、不幸せの区切りはあり、私達は不幸せのゾーンに居るのだと。

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