精神的S
03・変化(03)

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 オヤジみたいに見えるから端から見たくないと思っていたなつみに、苺は無神経にも最も言われたくない言葉を楽しそうにぶつける。顔には出さないように心がけているけれど、ショックの表情を隠しきれていない。 「その子、性格はどうなの?」 「性格は良い子よ。素直だし、元気だし、礼儀も正しい。ちょっと真面目すぎるところがあるかなと思うけど、不快に思うほどでもないし」 「後は能力が付いてくれば、言う事なしじゃん」 「まぁね…頑張ってるんだけど、少し頼りないのよ。言われた事は出来るけど、それ以上の事は出来ない。言われた事、頼まれた事しか出来ないマニュアル人間なのよ」 「マニュアル人間でも、性格が良ければ結構じゃない。うちの工場の新入社員なんて最悪だよ」 「へー、そうなんだ。どんな人なの?」  このなつみの問いが、苺にエンジンを掛けてしまったらしく、苺は料理に手を付けず新入社員の不平不満を語り始める。 「もう、とにかく最悪。仕事態度が悪い、愛想が悪い、外見が悪いの三拍子揃った最低男。それで、仕事はきっちりとこなせるもんだから、いい気になってるの。働いてお金を貰うなんて、こんな簡単な事なんだろって」 「最後の、外見が悪いは言ったら気の毒な気もするけど」  ミシオが、ボロクソに言われる面識のない新入社員を庇うように言ったが、苺の怒りは納まらない。 「でも、そいつはいつも見下してものを言うのよ。その時の顔を見たら、ナルシー入ってるんじゃないって思えるぐらい、優越感に浸ってるの。ブ男のナルシーなんて最低最悪じゃない?」 「本当にナルシストだとしたら、ちょっとね…」  新入社員を庇おうとしていたミシオだけれども、ナルシストはあまり好きではないらしく、退き気味になっている。最初に『本当に』と言葉を付けたのは、ミシオに出来る精一杯の配慮だろう。 「ミシオの所は、どうなの? 新人は入った?」  このまま苺の独壇場にしてしまったら苺の愚痴を聞き、苺に食事を奢るだけの集まりになってしまうと考えたなつみは、話をミシオに振った。 「風俗店は新卒者が入ってこないから、四月に入った子はいないわ。三月に入った、新卒者ではない新人ならいるけど」 「どんな子? 苦労掛けられてる?」 「全然手がかからない、しっかりした子よ。芯がとてもしっかりしてる」 「じゃあ、苺の時みたいに『恐い、恐い』と泣いたりはしないんだ」 「その話し、もう忘れてよ」  恥ずかしい過去に振れられた苺は、さっきまでの勢いは形を潜め、恥ずかしそうになつみに頼んだ。 「苺の時みたいに、泣いて『辞めたいけど、仕事がないから』とか言う事はないけど」 「だから、その話しは忘れてって」  ミシオにまで過去に振れられて、苺はバツの悪そうな表情を浮かべている。そんな苺に構わず、ミシオは言葉を続けた。 「でも、苺の時よりも厄介な悩みを持ってる子なの」 「どんな悩み?」  風俗店で働いている子が、悩んでいる。昔の自分の姿とだぶったのだろう。苺にしては珍しく、真剣な声色で問いかけた。 「苺は、どうして風俗店で働こうだなんて思ったの?」 「仕事がなくて、困ってたから」  高校を卒業した苺は、家庭の事情で就職コースを歩んだが仕事先が見つからず、焦った苺は、風俗店の門を叩いた。  そう言った経緯はまだ二人に話していなかったが、隠す必要はないと判断した苺は包み隠さずに話す。 「それで、どうして辞めたいと思ったの?」 「男の人が恐かったから…て言うより、お金を出して女をどうこうしようって男が嫌になったから。  だって、お客さんはそれだけが目的じゃない。そんなお客さんに対して、私は体を差し出し、奉仕しなくちゃいけない。それが仕事だって頭では分かっても、訳が分からなくなっちゃって、錯乱しちゃって」

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