精神的S
03・変化(04)

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 当時の事を思い出してしまったのか、苺の声は微かに震えている。  そんな苺を気遣い、ミシオが口を開く。 「その悩みを聞いた私が、苺になつみを紹介して、仕事を斡旋してもらって悩みから解放された。でも、今回のケースはそう簡単にはいかないの」  一度言葉を切って、少しの間を置いてからミシオは口を開いた。  相談するべきか、相談せざるべきか悩んでいたのかもしれない。 「彼女、セックスが好きなの」  ミシオから出た一言は、風俗店で悩んでいる子の悩みとは思えない言葉だった。寧ろ、天職だとも思える。 「それの、何処が悩みなの?」  苺は、当然の疑問を口にする。 「彼女にとってセックスは、肉体関係とかではなくスポーツみたいな感覚でセックスを楽しんでる。だから、一日一回はセックスしないと気がすまないらしいのよ。  それでね、付き合っていた彼氏に毎日関係を迫ったら、煙たがられ振られて。次に付き合い始めた彼氏には、煙たがられないようにしようと心がけて、毎日関係は迫らないで適当に男性を拾って、一夜限りの関係を持っていたら、それがバレて振られたらしいの」 「なるほど…思ったよりも深刻だね。毎日関係を迫られたら、男は大喜びすると思ってたけど、そうじゃないんだ」 「世の男が全員そうだったら、セックスレスの夫婦なんてゼロに近くなるでしょ」  深い意味は無くそう告げると、苺は申し訳なさそうに『あっ、ごめん』となつみに侘びた。 「別に、気にしてないからいいわ。今は私の事なんかよりも、ミシオのところの新人の方が大事」  なつみは、いまだに家の中で自分の居場所を見つけられずにいたが、今はミシオと関係を持っている為に欲求不満はなくなり、性的欲求という意味ではセックスレスに対するの悩みは皆無になっている。 「大変なのは分かるけど、悩み自体は明確に見えてこないのよね。セックスが好きで、男が離れていく。それなら、セックス好きの男を探すか、特定の男を恋人にしないのも手なんじゃない?」 「ホスト通いするとかね」  なつみの意見に、苺が便乗してくる。 「そう前向きに考えられる子ならいいんだけど、考え方が後ろ向きなの。  自分が好きになる人はいるけれど、自分を好きになってくれる人はいないから、自分は風俗店で欲求を満たしながらお金を稼いで、給ったお金を全て愛する人に差し出し、愛する人に『ありがとう』と感謝された瞬間に、自殺をするんだって迷いなく語るの」  手がかからなく、しっかりした子。そして、芯が強い。  一見優れた人物のようだが、間違った方向に向かいしっかりとしていて、芯が強いのは最も厄介である。 「それなら、お客さんの中から恋人を作るように、せっついてみたら?  お客さんなら、風俗店で働いてるのを理解してるんだから、毎日他の男性を相手にしても怒らないでしょ? そのお客さんだって、自分が指命していた子が彼女になれば、ただで風俗店でのサービス以上のものを望めるんだから言う事なしじゃない」 「なるほど…問題は、彼女が好きになる男がいても、彼女を一人の人間として好きになってくれるお客さんがいるかどうかね。常連になれば、性格とかが分かってくる場合もあるけど、大体の人は体…サービスだけが目的で来るから」  ミシオは、お客さんの顔を思い浮かべているのか、何かを考えながら言った。 「どちにしろ、私はなつみの意見に賛成だな。このまま何もしなかったら、その子は最終的に死のうと思っているのは変わらないんだから。どうせ死のうと思ってるなら、失敗してでも生きる道が見える方法を選んだ方が良いと思う」 「苺にしては、いい事を言うじゃない」 「何よ、私だってもう二十五になるんだから、大人な意見ぐらい言えるわよ」 「二人とも、助言ありがとう。明日、彼女と話し合ってみる」 「うん、その方が良いよ」 「なんなら、今度その子も一緒に飲む? なんとなくその子って、女友達とかも少なそうだから、男の目を気にしないで飲んでいられる、こういう女友達がいれば、人生を捨てたもんじゃないと思うかもよ」  人生捨てたもんじゃない  そう言い切る苺の姿を見て、なつみは苺は今幸せなのだろうと実感し、前向きな言葉を迷いなく言える状況を羨ましく思えた。

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