精神的S
01・拠り所(08)

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 ミシオは、なつみに勧められたからか、仕方なく食事に手を付けながら話しに耳を傾けている。  楽な気分で相談に乗ってもらおうと食事を勧めたのだけれど、却って気を遣わせる結果になってしまった。 「旦那さんの事は、今でも好きなの?」 「苺にも聞かれたけど、分からないの。好きなんでしょ? て聞かれたら否定したくなるし、嫌いなんでしょ? て聞かれても、否定したくなる」 「そう…なら、二人の間に亀裂が生じたのは、仕事が原因かな?」 「それと似た事も、苺に言われた。思い切って、仕事を辞めたらって。でも、共働きでもうまくやってたのよ。お互い自分の仕事の話しをして、話してても、聞かされてても、それは全然苦ではなかった。寧ろ、相手の事が知れて嬉しかったぐらい」 「共働きがいけないんではなくて、仕事に原因があるのかなと思って、なつみも旦那さんも、結婚してから職を変えてるでしょ」 「そう言えば…そうだ」  ミシオに指摘されたなつみは、そこには気づいていなかったという表情をして呟くように言葉をこぼす。  達之が会社員を辞めてAV監督に転職した際、なつみは猛反対をした。  友人の伝手もあり、一定の収入も見込める。話を聞く限りでは安定性は現職と比べ見劣るが、賭けに出るというほどの危険な橋を渡る転職ではないと理解していたが、反対した。  その経緯を二人に話す。 「で、どうして反対したの?」  当然の疑問を苺が素直に問いかける。 「どうしても、その条件を鵜呑みの出来なかったのかな。話がおいしすぎるって」 「なんだ、旦那が裸の女性の職場にいる環境が嫌なのかと思った」 「それは、少しはあったけど、そんなに重要じゃなかったよ」  なつみが苦笑いをする。 「嫉妬はなかったの?」  ミシオが問う。 「旦那さんは映画監督を目指している。AV監督と映画監督は全く違うものだけど映像関連という点では同じだから、夢へのステップアップになるかもしれない。  そんな旦那と違い、なつみは記者の道を諦めての時間に融通が利く職にランクを下げての転職じゃない。  夢に向かってる旦那と、旦那の為に夢を諦めたなつみ。  その辺での衝突はなかったの?」 「痛いところをつくね」  と言った後に、なつみは場を和ますように『苺と違って』と笑う。 「衝突があった方が良かったのかも知れないね。衝突しないで私達は、向き合わなくなったから。  職を変える前は頻繁に仕事の話をしたけど、旦那がAV監督になっえからは全く仕事の話をしなくなった。内容が内容だから妻の私には言いづらいんだなって気にしてなかったけど。  私は私の方で仕事の話はしなかった。それは、今の職場が思いのほか順調で、それでいて平凡だったから話す内容がなかっただけだけどね」  それから、なつみは箸が進まなかった。  達之に責任がある。  姑達に責任がある  或いは、時間とタイミングに責任があると思っていた夫婦間の溝が、ミシオの言葉で、自分にも非があるのではないかと感じてしまう。  結局その後は、ミシオと苺が気を遣い場を盛り上げ、湿っぽい話しは出ずに飲み回は続いた。  なつみは完全に空元気だけれど、騒いでいると少しは気が紛れる気がして、明るく笑い飲んだ。     「ごちそうさらでしら~」  簾を出ると、仄かに頬を赤らめた苺がほがらかな笑顔で頭を下げる。見た目はそんなに酔っていなそうではあるが、呂律が怪しいものになっている。 「ほら、このお金でタクシーに乗って帰りなさい」 「へっ、いいよぅ、そこらへ面倒見てもらっはら、悪いよぅ~」  なつみの施しを拒否するが、どんどん酔いが回ってきているように見え、こんな状態の苺を二人は放っておいては帰れない状態である。 「いいから、年上の好意には甘えなさい」 「じゃら、一生甘える~」

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