精神的S
06・名刺(04)

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 苺が来たら何かの報告をする予定だったミシオは、完全に苺のペースに押され、報告をするタイミングを失っている。久し振りに三人で会えて浮かれているのか、苺のマシンガントークは、中々納まりそうにない。 「それでさ、主任が勝手に、お昼食べる予定だったパンを他の場所に退けちゃったの。  その癖、主任が退けたって言う場所にパンがないから、パンを探し回るはめになって、お昼休みの内に見つからなかったから、今日は昼飯なしだったんだよ」 「で、結局パンは見つかったの?」 「実は、主任が私のパンを退けたのを見た友人がいて、そのパンを確保しといてくれてたのよ。それで、私が闇雲にパンを探し回ってる間、その友人も私を闇雲に探し回ってたから、二人とも昼飯はなし。  結果的に見れば、パンは見つかったんだけど、それは仕事を終えて、その友人と会ってからだったの」  苺の愚痴を、嫌な顔一つせずにミシオは聞いている。本当は報告とやらをしたいのだろうけれど、胸の内を見せないミシオがいたたまれなくなり、なつみが話題を変える為に口を開く。 「実は、私も似たような事があったの」  苺の独壇場になっているので、話の展開はさほど変わらなくても、話の軸となる人物をなつみが変える事にした。  話の終わりを、ミシオが話しやすいようにすれば報告とやらが出来るだろうと、いったん話の主導権を引き寄せる。 「似たような事って、昼飯が食べれなかったの?」 「そうじゃなくて、私の物が勝手に動かされてたの。私の場合は誰がやったか分からない、未解決事件」 「何を動かされてたの?」  ミシオが、真剣な口調で問いかける。それと相対して、苺は推理クイズを楽しむかのように目をランランと輝かせている。 「名刺入れに入ってた、名刺の順番が違ってたのよ」 「名刺入れが動かされた形跡は?」 「いつもより少し奥に置いてあったから、あると思う」 「そうなると、名刺入れを誰かが見たって事になるけど、名刺なんてなんの為に見るのかな?」 「名刺入れ以外に、何か動かされた形跡はあった?」 「それは、ないと思う」 「じゃあ、名刺入れだけが目的って事ね」 「名刺入れをしまっている場所を、なつみ以外で知ってるのって、誰なの?」 「夫は、知ってると思う。擦れ違いが始まる前は、よく仕事の話をしてて、夫の前で名刺入れを取り出してたから…あっ、あと姑も知ってるかな。この間、名刺を見返しているところを、姑に見られたから」  今の今まで、姑が名刺入れの場所を知っている可能性があるのをなつみは忘れていた。  一人で考えていても、中々思い出せなかっただろう。友人と話していると、自分の事を案外客観的に見れたりするものだなと思い知らされる。 「旦那さんか、姑が名刺入れを動かしたって考えた方が良さそうだね。泥棒が入って、名刺入れの中の名刺の順番だけ変えていくなんて到底思えないもん」  泥棒なんて考えは微塵も考えなかった。  無意識の内に、苺と同じくそんな泥棒なんて到底いないと考えていたのだろう。意識して考えるのは馬鹿らしいと、その考えを除外していたらしい。 「犯人が夫にしろ、姑にしろ、どうして名刺入れの中を覗いたのか分からなくて。  姑の嫌がらせなら、名刺を燃やしたり隠したりとか、もっと酷い事をしそうだし、夫が見たとしても、名刺の順番が変わってる意味が分からない」 「その、順番が変わってた名刺って、どんな人の名刺なの?」 「あっ! その名刺の順番が変わっているのは、何かのメッセージて考えね」  苺が、ミシオの考えが分かったと言わんばかりに鼻息を荒くする。 「そうではなくて、順番の変わっていた名刺を、犯人が使用したんじゃないかって思ったの。名刺の順番が変わってしまったのは犯人のミスで、本当は名刺を使用した後、きちんと元に戻したかったんじゃないかって」

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