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 再び、〈カラコロカラリーン〉と鈴の音色とともに、川村テル子が喫茶店の店内に滑り込むのを見送った小杉小夜子と亜希の母娘は、お互いの記憶の断片を思い出したように顔を見合わせた。 「ママ、亜希、前に風に飛ばされた白い風船を見て、あの風船、これからどこへ行けばいいのかなぁ、って尋ねたことがあったよね」 「そうね。ママも覚えているわ」小夜子の表情がじんわりと緩んだ。 「そう。あの風船が亜希なら、自由に空をぬって亜希の好きなところに飛んでいっていいの。そして、空は私、ママなのよ。亜希をどこまでも包み込んで、いつだって一緒にいるのよ」 「ママ!」亜希の顔が明るく輝き綻んだ。 「そうだ・・・・・・」亜希は何を思ったのか、二つの白い風船から延びた糸の端を結び合わせると、ゆっくりと手を離したのだった。  風も凪いで、雨上がりの澄んだ青空の下、その二つの白い風船は、手を繋いだ親子連れが仲睦まじく散歩にでも出かけるように、緩やかに天空に立ち上っていく。  満足げに亜希も小夜子もその白い風船の行方を暫く目で追っていたかと思うと、 「亜希」小夜子が笑顔で手を差し出した。  反射的に、亜希がその手を握りしめる。 「さあ、おじいちゃん、おばあちゃん、そして鈴鹿先生が待っているわよ」 「うん。ママ」亜希と小夜子はしっかりと手を携えると、軽やかな足取りで明日へ向かって歩き始めたのだった。

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