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 小杉小夜子、亜希の母と娘が病院を後にした時分には、雨脚はもうすっかり跳ね上がり、掃き清められたような春の青空が、爽やかに広がっていた。しかし、小夜子の気持ちは、この天候とは裏腹に、まだ、どんよりと重たい雨雲に覆われたままであった。当然、亜希の病気そのもののことも心配の種ではあったが、もう一つ心に引っかかることがあった。 (金曜日の二時からか・・・・・・)小夜子は心の中で溜息をついた。 「亜希・・・・・・」小夜子の呼び掛けに亜希が顔を上げた。 (でも、亜希に一人で検査を受けさせるなんて、矢張り無理だわ) 「なあに?ママ」 「いいえ。いいの」 「今週の金曜日の検査のこと?」 「亜希は心配しなくてもいいのよ。大丈夫だからね。あの鈴鹿先生が直ぐに治して下さるから」 「ママ、私、一人で大丈夫だよ、検査。ママ、金曜日は大切なお仕事があるって、言っていたでしょう」 「ええ。そうね・・・・・・。だから、ママの代わりに亜希に付き添ってくれる人を誰かお願いしてみるわね。悪いけど、亜希、その人と一緒に検査を受けに行ってね」 「いいよ・・・・・・。それからねえ、ママ」 「今度は何?」 「おなか空いたね」  小夜子が咄嗟に自分の腕時計に視線を送ると、 「あら、もう、二時半だわ。そうだ・・・・・・。ほら、来るときに見たあの懐かしい雰囲気のお店で亜希の大好物のオムライスでも食べようか」小夜子が誘うと、亜希は嬉しそうにコックリと頷いた。

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