キッチンシンクじゃ泳げない
16-♣♣♣♣♣♣

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「お前のそのツンと澄まして人を小馬鹿にしたような顔なんか見たくもない。あっちへ行っていろ!」炬燵に背を丸めた格好で座る孝治が、手に持っていたカップ酒のビンを良江に向かって投げつけようとした。 「あんた、何て真似するのよ!」斜め横に立っていた良江がお腹を庇うように反射的に身体をずらすのと同時に、この光景に居合わせた良江の意識も反射的にそうした動作を起こした。  すると、孝治と炬燵の延長線上の壁際に置いてあるテレビ画面に白い靄のような不確かな何かが浮かび上がるのを感じた。 (あれ、何?)  その不安定に漂う何かに形が加わってくると、この場にいる良江の意識が何処かで感じたことのある記憶に突然辿り着いた。 (そうだ。あれって、白い〈のっぺらぼう〉のようなもの。母さんが言っていた、〈のっぺらぼう〉。その瞬間、孝治の手から放たれたカップ酒のガラスビンが空中で静止し、この場の時間と空間が削ぎ落とされたように奪われていった。

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