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 小杉亜希とその〈保護者代理〉に任命された栗原美津江が、〈小児総合医療センター〉の敷地内に足を踏み入れる頃には、二人とも永年育んだ〈心の友〉のように打ち解け合い、亜希も美津江のことを、「お姉さん」ではなく、「美津江さん」と親しみを込めて呼ぶようになっていた。  外来受付のカウンターで、プラスチックの診察カードと検査予約票を渡すと、亜希と美津江は脳神経外科外来の方へと向かった。 「亜希ちゃん」 「あっ、先生。鈴鹿先生」亜希は診察室前の廊下に佇む鈴鹿女医の姿を見つけ、駆け寄って行った。そして、その亜希の〈保護者代理〉として、美津江も亜希に遅れまいと、その後を追った。 「亜希ちゃん。あれっ、この人は・・・・・・、そうだ。あのお店、喫茶店サントスのウエイトレスさんよね」 「はい。今日は、亜希ちゃんの保護者代理として来ました。栗原美津江です。よろしくお願いします」 「こちらこそ、よろしくお願いします。亜希ちゃんの担当医の鈴鹿です。でも、どうして?栗原さんは、亜希ちゃんのご親戚の方か何かなのですか」美津江が、ブルブルブルと顔を急いで左右に振ると、 「先生、亜希が美津江さんに無理にお願いしたの。ママは大切なお仕事で今日はだめだし、他に亜希の付き添いをお願いできる人がいないようだから、この前、帰りに美津江さんのお店に入った時に、この人だ!って、突然感じて、それで、美津江さんに・・・・・・」亜希が美津江の顔を見上げた。 「そうなの。先生もね、栗原さんのお店に時々行くのよ。先生の大好物を食べにね。だから、栗原さんのお顔には見覚えがあったの」美津江が鈴鹿女医の顔を見て、少し照れるようにペコリと頭を下げた。 「亜希も、この間、美津江さんのお店で、亜希の大好物を食べたんだよ、先生」 「へぇー、そうなんだ。亜希ちゃんの大好物って、なんだろうな?そうだ。せーので、一緒に発表しちゃおうか」 「いいよ、先生」 「じゃー、いくわよ。せーの・・・・・・オムライス」「オムライス」鈴鹿女医の声と亜希の声がハモッタようにして重なった。と、直ぐに、 「亜希ちゃんと一緒だわ。わぁーい、凄い!」鈴鹿女医は嬉しそうな亜希の手を取って無邪気に喜びを表現した。  藤村隆司が店で提供するオムライスは、景子の父親でオーナーの鳥飼源太郎から教わったものであった。定番のオムライスがフットボールの形をしているのに対して、こちらは園児が被っている円形の帽子のような形をしていた。内側が半熟のフンワリでトローリとした卵に包まれたチキンライスには、鶏肉、タマネギ、マッシュルーム、グリンピースの他に隠し味として、乾燥トマトや乾燥アンズ、そしてジャム等をペースト状にしたものが加えられており、トマトケチャップの酸味と絶妙な味のハーモニーを奏でていた。また、帽子の鍔の部分に当たる卵の上には、デミグラスソースがかかっており、このソースのコクと甘みが卵とチキンライスに極上の味覚の醍醐味を与えていた。  このキャッキャッとはしゃぐ二人を尻目に、吾は、(この二つの個体は確かに調和している)と感じていた。そして、美津江自身も、この時(この二人、本当の親子みたい)と思った。

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