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「お隣の川村さんのおばあちゃんが、本当に羨ましいわ」川村テル子は自分の言い放った言葉に動揺を覚えた。 (えっ、川村って、私のことじゃない・・・・・私ったら、一体何馬鹿なことを言っているのかしら) 「そうだな。俺だって、そう思うさ。一人で気楽に暮らせるもの。ところで、今日もアイツら、来るのか」 「来るに決まっているじゃない」 (そうね。そのようね。私も息子さん・・・・・そう、お隣の吉井さんの息子さんの車に駅に行く途中で出くわしたもの。それにしても、何だか私、夢を見ていて、その夢の中でお隣の吉井さんの奥さんに成りすましているようだわ。でも、犬や鴉に話しかけられる夢よりはまだマシよね) 「おい、佐和子。俺の顔に何かついているか。さっきから、俺の顔をマジマジと見つめたりして」 (あらまあ。吉井さんのご主人を見かけたのが久しぶりだったから、私ったら、ついじっくりと見とれ・・・・・、いやだ、亡くなったうちの主人の方がよっぽどハンサムだわ) 「あなた自身は、あの子たちのことを、どう思っているかって気になって」 「もううんざりだな」 「そうね。私も。最初、月に一度くらい、みんなで顔を見せに来てくれた時には少しは嬉しかったけど、こう毎週毎週来られて、家で二日間もゴロゴロされたんじゃ・・・・・。それに、食事の支度から後片づけまで一つ残らず私がやらされるんだから」 「敦子や輝彦の嫁の祥子さんにやらせればいいじゃないか」 「するわけないじゃないの。あなたも知っているでしょう。夕食の後なんて特にそう。ソファーの所で、敦子と輝彦夫婦が、ダラダラとテレビを観ながらおしゃべりに花を咲かせて・・・・・、私が後片づけをしなかったら、そのまま放りっぱなし。この前、私、頭にきたから、敦子に言ってやったの。敦子、あなたも自分たちが食べたお茶碗くらい洗ったらどうなのって。そうしたら、言うに事欠いて、お母さん、私も毎日毎日家事をやっているんだから、たまに実家に帰ってきた時くらいはのんびりさせてよ。それに、私がそんなことをすれば、祥子さんが気兼ねして、ここに来たくなくなったら、お母さんたち困るでしょう、ですって」 「何がたまにだ。それに、来てもらわなくても、こっちは別段どうってこともないのに」吉井輝之が苦虫を噛み潰したような顔をした。 「そうよ。来てもらう度に、うちは大赤字よ。だって、来て一緒に買い物に行く度に、あの子たちの分まで買わされて、挙げ句の果てには、帰り際になると、冷蔵庫の中にある目ぼしいモノを一切合切持って帰るんだもの」  ちょうど、佐和子が、三度目の大きな溜息をつき終わった時、リビングのインターホンがピンポーンと鳴り、予期した客の来訪を告げた。  吉井夫婦は、感情を持て余したように、お互いの顔を見合わせ、しぶしぶという風に、テーブルの椅子から緩慢な動作で立ち上がると、玄関先へと向かった。

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