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「あらっ、もう五分前だわ。大変、急がなくちゃ」  鈴鹿女医に促され、予約されていたMRI検査とPET検査、それに腰椎穿刺による検査を受けるため、亜希は鈴鹿女医と美津江に付き添われ、地下一階にある検査室へと向かった。「栗原さん、亜希ちゃんの検査が済むまで、そこで待っていてね」そう言うと、鈴鹿女医は美津江に長椅子を勧めた。 「美津江さん、亜希、検査に行ってきます」 「先生、亜希ちゃんを、よろしくお願いします」美津江も〈保護者代理〉として、鈴鹿女医に深々と頭を下げた。そして、その下げた頭をスウーッと上げていく途中で、亜希の頭が視覚に映り、そこに意識を集中させた途端、 「あっ、ここ」吾は、亜希の頭部全体を地球に例えると、北緯三十二度、東経百十四度の地点を右の人差し指で示していた。 「美津江さん」亜希が戸惑ったような顔をした。 「栗原さん、どうしたの?」鈴鹿女医も亜希と瓜二つの表情で訊ねる。 (おっと、しまった。吾じゃない。ここは栗原美津江だった) 「えっ、いえ、ほら、ほら、亜希ちゃんのつむじって右巻きなんだ。そうか・・・・・・だから、亜希ちゃんは人一倍お利口さんってわけか」美津江は一人で納得したように、フムフムと反対側の手で顎をさすった。 「もう、美津江さんったら」亜希が朗らかに微笑んだ。 「栗原さんって、凄いわ。亜希ちゃんの緊張を解きほぐすために、パッとそんなパフォーマンスが出てくるんだもの」 (いやいや、そうじゃないんですよ)吾の思いをよそに、鈴鹿女医の感動の余波を残して、二人の姿は検査室の扉の内へと消え去った。 (吾は確かに先程、小杉亜希の脳神経細胞の、この栗原美津江が指さした地点の内部に、全体の秩序と調和を乱す波動を意識したのだ。そうすると、なるほど、そうだ) 吾は栗原美津江をゆっくりと長椅子に座らせると、吾の本体である意思を、再び小杉亜希の個々の脳神経細胞が奏でる振動に同調させるように努めた。すると・・・・・・、 突如、吾の前に視覚化された映像が現れた。この映像は、小杉亜希の個々の脳神経細胞の〈意識体〉としての波動を、吾が具現化して表現した世界であった。

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