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「おっと、いけない!」 「今度はどうしたの?栗原さん」 「これですよ。マスター」美津江は手の平を上に向けたまま藤村に差し出した。 「えっ?」藤村も釣られたように覗き込む。 「髪の毛・・・・・・ほら、七本も抜けている」美津江の声が沈んだ。 「ひい、ふう、みい・・・・・・確かに七本だ。でも、栗原さんは、僕と違って、ふさふさの髪だから、たかだか七本くらい抜けたって、別に気にしなくたっていいんじゃない」 「いえ、そう言う問題じゃなくて・・・・・・」今度はその手の平をギュッと握り込むと、美津江は照れ隠しのように、そっと藤村に微笑みを返した。そして・・・・・・、 「それよりも・・・・・・、そうですよね、マスター」意図的に美津江は話題を引き戻しにかかった。 「さっきの女の子とお母さんのことですけど、うちのお店に立ち寄ってくれるといいですね。どこかに用事で出かけて来たのなら、その帰りにでも」と言葉を繋げると、そのまま視線を窓の外へ、広場の方へとゆっくり移動した。そして、煙るような春雨に打たれ、ひっそりと佇む桜の古木を、ただボンヤリと見つめ続けるのだった。

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