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 検査室は地下の一階にあるということで、鈴鹿女医が亜希と小夜子を案内することになった。      エレベーターに向かう途中、ロビーの片隅に子供の人だかりができていた。 「あれはね、ピエロさんに子供たちが群がっているのよ、亜希ちゃん」 「ピエロ?ですか」亜希に代わって小夜子が口を挟んだ。 「そうなんですよ、お母さん。研修医の先生方が、自主的に午前と午後の二回、子供たちに喜んでもらおうと、ピエロに扮して、ああして一緒になって遊んでいるんです」 「亜希も・・・・・・」 「そうね。亜希ちゃんも検査が済んでから一緒に遊ぶといいわよ」  鈴鹿女医と亜希は、診察室を出る時からずっと手を繋ぎ、小夜子の数歩手前を並んで歩いていた。時々、二人で顔を近づけながら微笑みあったりして、小夜子が後ろから見ていても、亜希が心から楽しそうにしている様子が伝わってきた。 (なんだか、私より、あの先生の方が亜希の母親みたい。それに、私といる時には、亜希、あんな生き生きとした表情しないもの)小夜子がそう感じた時、 「先生、子供いる?」亜希が唐突な質問を鈴鹿女医に投げかけた。 「おっと、亜希ちゃん、そうきましたか」鈴鹿女医が少しおどけて見せてから、 「来年になると先生、四十の大台に突入するんだけど、この歳まで、残念ながらお嫁のもらい手がなかったのよ。だから、独身なの」 「先生、すごく美人だし、とっても好い人なのに」 「そう?私って、美人なの?うふふ。そうすると、世の男性方は女性を見る目がなかったってことよね。亜希ちゃん、そうよね」亜希は素直に頷いた。 「あのね、先生・・・・・・もしもだよ・・・・・・」 「何?亜希ちゃん。先生のこと美人だって言ってくれたから、この際、亜希ちゃんの質問に何でも答えてあげるわ」 「先生、お医者さんってお仕事でしょう。それでね・・・・・・」亜希の声が段々と小さくなり、呟くようになっていった。 「えっ、何?何?・・・・・・」鈴鹿女医は、亜希の口元に自分の耳を近づけ、「うん、うん」と話の内容の区切りに合わせて顎を上下させた。 (亜希ったら、先生に何を話しているのかしら)小夜子が後ろから二人の背中を見つめながら首を傾げた。そして・・・・・・、 「先生、きっと、この仕事を辞めちゃうわね」鈴鹿女医が断言したように言い放った瞬間、亜希は、一抹の寂しさを小匙で少々掬って混ぜ合わせてはいるが、満足げな表情でしきりに頷いた。すると、小夜子が再び首を捻った。

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