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 そして月曜日―  いつもの行きつけの喫茶店で少し早めの昼食を取り、いつものようにお昼のランチタイムで混み始める前に店を出た水口良江が、心に放置されたままの〈わだかまり〉のせいか、物憂げに店の扉を閉め、母親の多恵が入所している高齢者介護施設へ向かうため、重い脚を引きずるように歩き始めると、急に空からパラパラパラと大粒の雨が頭上に降り注いだ。 (チェッ)良江は心の内で軽く舌打ちを漏らした。  あのテレビのお天気キャスター、今日一日は保つって言っていたはずなのに、良江が恨めしげに、白い眼を上目遣いで空に向けた丁度そのタイミングを見計らったように、 「おばさん、この傘」 「えっ」良江が咄嗟に視線を下に向けると、小さな小学生くらいの女の子が、両手で傘を抱えるように持って立っていた。 「私に・・・・・・、おばさんに貸してくれるの」女の子はニッコリと頷いた。 「でも、おばさんが、その傘をあなたから借りちゃうと、お嬢ちゃんが困るんじゃないの。濡れちゃうよ」 「ううん。ママの傘があるから。一緒に入るからいいの」 「どうぞ、遠慮なさらないでください」いつの間に近づいたのか、女の子の背後から母親らしい女性が良江に声をかけた。 「でも、本当にいいんですか。こんな上等な傘」 「ええ、気になさらないでお使い下さい。でも、さっき出て来られたあのお店にまた来る機会がおありでしたら、あのお店に預けて置いてくれませんか、この傘。いつでも構いませんから」 「あのお店なら、毎週、月曜日には必ずと言っていいほど、お昼をあそこで取ることにしています」 「じゃ、おばさん。美津江さんに、亜希に渡してって、預かってもらっておいて」亜希は、もうすぐ会える栗原美津江のことが脳裏にポッカリと浮かんだのか、良江にも嬉しそうで親しげな微笑みを振りまいた。

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