キッチンシンクじゃ泳げない
♠―14
*************** 「ハークション!」このくしゃみが〈導火線〉にでもなったのか、吾は再び栗原美津江の個体に同化し、黄ばんだ天井の見慣れた蛍光灯の仄かな明かりを見つめていた。 「ハ、ハ、ハックション」もう一発来た。 そう言えば、吾は一糸纏わぬ裸のまま、仰向けにベッドに転がっていたのだ。いけない・・・・・、 吾、いや、栗原美津江に風邪をひかせてしまう。これは、吾の良心に根ざした信条に大いに違反してしまうことになる。 吾は一呼吸で起き上がると、栗原美津江に熱いシャワーを浴びさせるべくバスルームへと急いだ。 今の時間―午後8時23分51秒、そう、吾が本来の吾に戻った時刻であると同時に、小杉小夜子と亜希の意識がピッタリと重なり合った時刻でもあった。 「ハークション」それにしても、バスルームでの駄目押しのくしゃみはよく響くものだ。 ***************
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