キッチンシンクじゃ泳げない
10-♥♥
「素敵なお店ですね。影山常務」小杉小夜子が愛想よく微笑んだ。 「そう。ここは私のお気に入りで秘密の場所なの。だから、普段ならプライベート以外では来ないところなんだけど、今日は特別。だって、小杉さんの社内コンペ成功のお祝いですからね」 「常務、今回のコンペが首尾よくいったのは、ここにいるみんなのお陰ですから」小夜子は同じテーブルに付いた面々を見渡した。 「そうね。本当にこの一年間、みんな根気よく踏ん張ってくれたわ」影山常務が満足げに頷くと、 「いえ。全ては影山常務とチーフであられる小杉主任のお陰です」 「そうですよ。僕たちは、ただチーフに引っ張られて付いて行っただけですよ。チーフがいたからこそ成功したんですよ」周りから小夜子に向けた称賛の声があがった。 「じゃ、シャンパンの用意が整ったようだから、みんなで乾杯をしましょう・・・・・では、今日のコンペの成功と、ここに集う六名の社内最強戦士の洋々たる前途を祈念して・・・・・乾杯!」 「乾杯!」「乾杯!」・・・・・・ 小杉小夜子を始め一同は、誇りに満ちた笑みを各々の顔に浮かべ、影山常務の凛とした声に唱和した。 すると、この時、小夜子と影山常務の視線と視線が、何事かを物語るように純白のテーブルクロスの上で邂逅すると、両者のシャンパングラスの縁と縁とが触れ合い、キーンと空気を揺さぶるような金属的な響きが周囲に放たれたのだった。 そして・・・・・、小夜子がグラスを自分の口にそっと運び、唇に触れたその瞬間、小夜子の意識は、その時間と空間から突如として消滅することになった。
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