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 翌日の土曜日の朝・・・・・・  小杉小夜子はこれまでに決して味わったことのない安らかな気持ちで目が覚めた。  カーテンの隙間から、燦燦と輝いては揺れ動く粒子のような春の日差しが、小夜子の隣で、まだ健やかな寝息を奏でて眠っている亜希のふんわりと柔らかそうな髪の表面をスーッと撫でるように流れた。  その途端、眠っているはずの亜希の口元が一瞬綻んだように小夜子は感じた。 「亜希・・・・・・」小夜子は久しぶりにベッドで一緒に寝た亜希の桜色の頬を愛おしそうに右手の甲で優しく触れた。 すると、ビクッと肩口が小さく揺れると同時に、亜希の目がゆっくりと開いた。 「ママ・・・・・・」 「起こしちゃったみたいね。ごめんね、亜希」 「ううん。いいの、ママ」亜希は横に向き返ると、小夜子の身体にギュッとしがみついてきた。 「ねえ、亜希。さっき、眠りながら笑っているように見えたけど、楽しい夢でも見ていたの?」 「そうなの・・・・・・ママと一緒にお傘を返しに行っていたの」 「傘?ああ、あの傘ね」 「うん。おばあちゃん家へママとお傘を返しに行っていた夢を見ていたの」 「そうね。随分と長い間、借りっぱなしになっているものね、あの傘」 「おじいちゃんもおばあちゃんもママも嬉しそうに笑っているから、亜希もスッゴク楽しくなって」 「それで、亜希が笑っていたのね」 「ねえ、ママ。行こうよ。おじいちゃんとおばあちゃんの所へ行こうよ、ママ」亜希は小夜子の顔を見上げるように見つめた。 「そうね。早く返さないと、おばあちゃんも困るものね。それに、亜希のことについても話しておかないとね」 「それじゃ、ママ」亜希はバネ仕掛けのように突然上体を起こすと、小夜子の枕元にある携帯を取り上げた。すると、「ママ」同じようにベッドに上体を起こした小夜子の手にその携帯を握らせた。 「そうね・・・・・・思い立ったら吉日だよね。小夜子は呪縛の網を振り切るようにブルッと身体を震わせると、もう何年も触れることのなかった実家の電話番号に表示を合わせると、ダイヤルインしたのだった。

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