14. " 波紋 Ripple 14 " 私はその夜のことで夫を問い詰めたりはしなかった。 ううん、できなかった。 負い目があるから? 妻として主婦としての役目が果たせてないから? そう、それもあるかもだけど、一番の理由はただ怖かったのだ。 今の状況で問い詰めてしまったら・・どういう結果が待っているのか? ろくなもんじゃないことくらい、誰でも想像できるよね。 だからと言って放っておいていい問題でもない。 スルーして、知らない振りで、暮らしていくのか? 問い詰めて自分の気持ちをすっきりさせるのか? 1か月ほど、私はずっと思い悩み続けて過ごした。 聞きたいことはシンプルだ。 『あの時の女は誰? キスされるような仲なのか?』 だけど、最後の質問はしたくはない。 『私のことを今、どう思っているのか?』 夫が他の女性を選んだらどうしよう、ってやっぱり思ってしまうのだ。 今の私には1mmも自信なんてないから。 文句も言わず、一緒にいてくれるだけで満足しないといけないんじゃ ないの? という声が心の中から聞こえてこなくもない。 そうはいっても、私は仮にもあの人の妻なのよ、キスをしてくるような 女性がいるなんて酷すぎる、そんなの言語道断だ、という声も聞こえてくる。 ・・・・・ 寝た振りで問題をやり過ごしたあの夜から、私は今後どうすればいいのかと 悩み続け、悶々とそれからの日々を過ごし。 そして、しばらくして、また夫を待つ夜を迎えた。 この日も夫の帰宅は遅かった。 前と同じように窓辺に立ち、夫の姿を探した。 疲れるとベッドに腰掛けたり、座ったりしつつを何度か繰り返し待った。 その夜、夫はタクシーで帰還した。 一人だった。 ほっとしたことで、帰宅し玄関に入って来た彼に自然とお帰りなさいが 言えた。 そのことで勢いをつけた私はもう一押しの言葉を繋げた。