保健室の天使
第9話ー① 病室での日常

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 入院生活三日目。朝九時頃、幸太郎の母は様子を見に幸太郎の病室へやってきた。 「おはよう幸太郎。今日も着替えを持って来たわよー」  母はそう言って、ベッドの対面にあるチェストの中に持ってきた幸太郎の着替えをしまっていく。  今日も母の服装はパートタイマーとして働いている清掃会社のグレーの制服だ。髪は雑に一本で束ねられている。家事を済ませてから急いできてくれたのだろうと、幸太郎は察した。  どうやら母は、入院の手続きの時に来られなかったことを気にしているらしい。少しでもその穴を埋めようと、入院することになった翌日から仕事へ行く前に病室に顔を出すようになったのだ。  入院手続きのすべてを袋井に任せたうえに、その日に顔を出してくれなかったことを少しは寂しく思っていたが、実際にこうしてない時間をわざわざない時間を捻出してもらうのは、正直こころが痛んだ。 「別に、無理して毎日来てくれなくてもいいんだけど」  幸太郎はぶっきらぼうに言う。  本当はこんなことを言いたいんじゃないと、チクリと胸が痛んだ。 「幸太郎は気にしなくていいのよ。母さんが来たくて来てるんだから」  振り返って笑いながら答える母の顔が、幸太郎からはなんだか疲れているように見えていた。  僕のせい、か――幸太郎の背に罪悪感が重くのしかかる。  父は昔から仕事人間で家事の手伝いはほとんどしない。平日はもちろんのこと、休日も関係なく仕事へ行くような人なのだ。  それだけ父が働いているおかげで貧しい暮らしをしているわけではなかったが、幸太郎の治療費はそれなりにかかるものだった。  そのため、少しでも治療費の足しにしようと母もパートタイマーとして働いている。  つまり母は、一人で家事をこなしながらパートタイマーとして働き、病気である幸太郎の世話をしているということだ。  中途半端な自分の存在が母を苦しめているような気がして、その顔を見るのが日に日に辛く感じる。母の愛情を分からなくもなかったが、このままでは自分は罪悪感に潰されてしまいそうだと幸太郎は思っていた。  そう思っていても幸太郎は「来るな」と母に強くは言えず、遠回しに伝えてみるも、それはそれでなかなか伝わっていないようだった。  僕が病気でさえなければ、母さんだってもっと自由なのにね――。  幸太郎は母に聞こえないよう小さくため息を吐いた。

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