保健室の天使
第6話ー③ 僕だけが知る君の姿

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 英語の授業を終え、使沙に声を掛けようと幸太郎が顔を上げた時、教室に使沙の姿はなかった。 「いつの間に……僕には一言くらい声をかけてくれてもよかったのに」  と少々不貞腐れながらも、クラスメイトたちと仲良しそうにする使沙を見なくて済んだと幸太郎は安堵する。 「仕方ない。放課後、寄ってみよう」  僕と、使沙だけが過ごせるあの場所に――。  やれやれと言った顔をしながらも、幸太郎の口角は上がっていた。  ――放課後。 「使沙。いるか?」  保健室の入り口でそう問いかけてから幸太郎は扉を開けて中に入る。問いへの返答はなく、保健室には誰の姿も見当たらなかった。  もしかしたら使沙はもう帰ってしまったのかもしれないと幸太郎は思う。 「僕も帰ろうかな……」  幸太郎は保健室を出ようと身体の向きを変えるが、一度ベッドだけ覗いていこうと再び内側に足を向け、その足を前に出した。  二台並んでおいてある左側のベッド(いつも幸太郎が眠っているベッド)の周りを覆う白いカーテンを右手で少しだけ開けて中を覗くと、スヤスヤと寝息を立てて眠る使沙の姿を見つける。 「なんだ。寝てたんだ」  幸太郎はそのベッドにそっと腰かけた。  いつも使沙がやっているように添い寝でもして驚かしてやろうかと思ったが、さすがにそんな勇気を持ち合わせていなかったため、寝顔を見るだけで済ませてやろうと小さく笑う。  その無垢な赤ん坊のような寝顔に吸い込まれそうな気持ちになった。  ただ可愛いとか、傍にいたいとかそういう感情とは違う何かが湧いてくる。 「使沙は本当に不思議な子だな……」  幸太郎はそう言って使沙の頭をそっと撫でた。すると、使沙はくすぐったそうにしてから、弛緩した表情になる。  そんな使沙を見て、幸太郎はクスクスと笑った。  今この寝顔は僕だけのもので、他のクラスメイトたちは知らない。  僕だけが知っている使沙の顔。  その優越感に幸太郎の心は満たされた想いになる。 「じゃあ、そろそろ僕は帰るね。また明日」  幸太郎は立ち上がりながら眠ったままの使沙にそう伝え、保健室を後にしたのだった。  僕も、一番に君のことを分かってあげられる存在になりたいと思っているよ――。

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