保健室の天使
第1話ー② 絡みつく罪の意識

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 扉を開けて部屋から出ると、幸太郎は廊下の明るさに思わず顔をしかめる。  そして自分が今までどれだけ暗い部屋にいたのか、ということを思い知らされた。 「気持ちが暗いと、部屋まで暗くしたくなるのか」  そんな自虐的なことを呟きながら、幸太郎は小さく息を吐く。  最後に心の底から明るい気持ちになったのは、いつだっただろうか――ふとそんなことを思ったが、すぐには思い出せなかった。きっとこれからも思い出すことはないし、明るい気持ちになることもないのだろう。  目が慣れてきたところで、幸太郎は『データ管理課』と書かれたプレートの部屋を後にした。  誰もいない白いリノリウムの床を進む。 「今ごろは決起集会でもやってるんだろうな、あいつら」  現在、この研究機関をあげて取り組んでいる大きなプロジェクトが、とうとう最終工程に入ったらしいと幸太郎は風の噂を耳にしていた。  そのことで他の研修員たちはそちらにかかりきり。実験棟で今か今かと実験の成功を待っているに違いない。  だからこそ、使い終えたデータを管理するだけの『データ管理課』がある管理棟になんて誰も足を運ぶことはなく、これだけ閑散としているのだろう。 「所詮、過去のことなんてどうだっていいってことなんだろな。誰に何があったとか、どうなったとか」  過去――それは幸太郎にとってかけがえのないものだった。自分と彼女を繋ぐ大切な時。   「あれから、十年か」  ふと彼女の顔が浮かぶ。栗色の髪、雪のように白い肌。長いまつげにぷるんとした唇。彼女の鼓動はいつも優しくて温かい音をしていた。  しかし、彼女はもうこの世には存在しない。  彼女を失ったあの時からずっと、僕の身体には罪の意識が絡みついたままだった。  幸太郎はそっと自分の胸に手を添える。 「本当はこんなこと、さっさと終わらせたいんだけどな。そしたら、僕はもう頑張らなくてもいいよね――使沙つかさ」  ――辛い、苦しい。もうこんな人生から解放されたい。  天江あまえ使沙の死から十年。  幸太郎は今もまだ、彼女の残した罪悪感にとらわれている。

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