貸し出し中
貸出中

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 私は夢中になってそのシリーズをつぎつぎに読んでいった。 先生が言っていた通り、三つの学校の蔵書印がかわるがわる出てくるのも、面白かった。 ただ、不満がひとつ。本棚の本だったら一度に二冊借りられるのに、倉庫のその本は一度に一冊しか貸してもらえないのだ。 おまけに借りられる本も好きな本ばかりではなく『一冊は、先生のお薦めの本を読むこと』『宿題はちゃんとやること』と条件がふたつもつけられたのだ。 最初は面倒だなと思ったけれど、先生が選んでくれる本も興味深いものが多かったので、それはそれで楽しく読むことができた。 最初に借りてから二か月近くがたったころ、先生が一冊の本を私に手渡しながら言った。 「これでこの学校においてあるこのシリーズはおしまい。」 「そうなんだ。いっぱい読んだ気がするけど、何冊読んだの?」 「34冊ね」 「お~!われながら、すご~い」 「ほんとに好きなのね。ほんとはね、学校の台帳では35冊あることになってたのよ。でもあなたが読んだのは34冊」 「だいちょう?」 初めて聞く言葉に私の頭の中は『?』マークでいっぱいになった。 「ああ。あなたたちには、なじみがないわね。いまはみんなの本は、パソコンとバーコードで管理しているでしょう?でも昔は貸出ノートに書いて、借りていってたのよ」 「え~毎回書くの?めんどい」 「そうね。だけどパソコンがない時代だから、本を新しく買った時も台帳って呼ぶノートに書くし、貸し出しの履歴もノートだし。そうね結構大変だったと思うわ。だけど、そのおかげで残っている情報もいっぱいあるのよ」   「情報?」 「そうよ。もちろん今ある本の情報は、パソコンに記録してあるけれど、それはパソコンを図書室で使うようになってからのものだけなのね。だからそれより前の貸し出し履歴は、ノートにしか残ってないの」 「ふうん…」 「で、あるはずの本が足りないのはなんで?と思って、倉庫の貸し出しノートを全部確認してみたの。そうしたら、見当たらない一冊は『貸出中』ということになっているのね」 「貸出中?返してないってこと?」 「そうよ。平成2年の2月に2年生の生徒が借りているみたいだけど、ノートには苗字しか書いてないのよね」 「ふうん…倉庫の別の場所に紛れこんでるってことはないの?」 「先生がこの学校に来た時、倉庫の中がぐちゃぐちゃになってたから、さっき言ったでしょう?台帳。それを見ながら本を確認して、わかりやすいように分類して箱に詰めていったから、その時に『ない』のは確認できてるのよ」 「めちゃめちゃ、大変だったんじゃないの?」 「まあ、そういうのも先生の仕事だし、なにより本が好きだからね。なかなか楽しかったわよ」    帰宅後、先生との約束どおり早々と宿題を終えた私は、リビングで借りてきた本を読んでいた。 「ただいま」 「おかえり。早かったのね」 お父さんがこんなに早い時間に帰ってくるのって珍しい。 私は『また本なんか読んで』と小言を言われるのがいやで部屋に移動したかったけれど、ソファから立ち上がるより早く、お父さんがキッチンの横を通ってリビングに入ってきた。 「…おかえりなさい」 「ああ。ただいま。…なんだなんだ、お前は。また本をよんでいるのか」 お父さんが、とっさに私がテーブルに置いた本を目にとめて言った。 「うん…でも宿題は終わったもん」 「宿題だけが勉強じゃないだろう、まったく。くだらないものばかり」 と、お父さんの声が途中で止まり、本を手に取った。 「これは…最近の子も、こういうのをよむのか?」 「図書室の先生が、面白いからって倉庫にあったのを貸してくれてるの。昔、すっごく人気があったんだって」   続

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