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 陽菜の家に行った日の夜、奏哉は自室でスマホを見つめていた。  ついさっき、父親に電話番号からショートメッセージを送っていた。  電話にしようかかなり迷ったが、知らない電話番号からの通知をどう思うか、出なかった場合にかけ直してくるかもわからない。かけ直してくるのを待つことを考えたら、最初から名乗れる手段を選んだ。  それでも、奏哉の送信を押す手は震えた。送るのが怖かった。  陽菜の父、直人の言葉が蘇る。  あのあと、直人は奏哉にとても言いにくそうに 「もしかしたらお父さんは……他にもう家庭があるかもしれない。そういう可能性は、0ではないと思う」    と言った。  それに対して奏哉は 「わかっています。そもそも不倫だと聞いていたので、その不倫相手と結婚してるかもしれないとはずっと思っていました」  と返したが、そう思うことと、実際に事実を目の当たりにするのは別だ。他に家庭があることは仕方がないことだと思う。それより奏哉が怖いのは、内心迷惑だと思われることだった。でも、母とのやり取りを目にした限り、奏哉や遥斗を気にしてくれてることは確かだと思う。それを拠り所に、奏哉は送信ボタンを押した。 『奏哉です。母さんとは秘密で話がしたいです。メッセージアプリのID送ります。XXXXX』  すぐに返事があるとは限らないと思い、送ったあとはできるだけスマホを気にしないようにしようとしたが、どうにも気になって仕方がない。1分がどうしようもなく長く感じる。    奏哉は今日の記憶をたどる。  長年父親と接していなかった奏哉にとって、直人の存在はとても尊い存在に感じた。陽菜から話を聞いていた以上に、直人は奏哉の思う理想以上の「父親」に感じた。  陽菜があれほど素直にまっすぐな性格である理由もわかる。とても愛されて育ったんだろう、そう思わせる親子の関係を感じた。  そんな直人が、奏哉のことを心底心配してくれているのが伝わった。それは暖かく、同時にとても切ない気持ちにさせられた。  直人の言う、「親子にも色々ある」という言葉も理解している。頭では理解しているが、目の前で見たふたりの親子の関係と愛情の深さに憧れずにはいられなかった。  奏哉の父親には別の家庭があるかもしれない、という話の後、陽菜は唐突に『お父さん、そういえば言わなきゃいけないことがあるの!』と言い出した。少しだけ重くなった空気を軽くしようとしたのかもしれない。  その姿と二人のやりとりを思い出すと、ふと笑ってしまう。  『私も奏哉と一緒に奏哉のお父さんに会いに行く! いいよね?』と言った陽菜に対して、『日帰りか? もしかして泊りか…? 高校生のふたりが…?』と目に見えて苦悩しだす直人。  結局、色々思い悩んだ末に『私も奏哉くんが心配だから、ついて行け! ふたりを信用するからな!』と言って許可が出た。最後の言葉は自分に言い聞かせてるようにも聞こえた。ただし、何かあったら絶対に連絡すること。と何度も念を押された。  あのときの陽菜の純粋で悪びれのない笑顔と苦悩する直人の姿を思い返すと、『父に会いたい』という気持ちが強くなる。  スマホから意識がなかなか離れてくれず、陽菜に電話して気を紛らわせようか――そう思ったとき、スマホが鳴った。メッセージアプリの通知音だった。 『奏哉か。連絡ありがとう。いつでも話聞きます。父』  メッセージアプリの登録通知と、短いメッセージが届いていた。  最後の『父』という文字を見て、感情が込み上げた。あまり深く考えず、すぐに短いメッセージを送った。   『会いに行ってもいいですか』

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