透明な罪のゆくえ
34.向かう道

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 奏哉が実の父親・哲に「会いに行きたい」と連絡を入れてから、すぐに予定が組まれた。  その日が来るまでは長いような、短いような、もどかしい気持ちを抱きつつも不安と期待が交互に訪れる。日常は普通に流れるのに、奏哉の内心は忙しかった。  会う日は、GWに決めた。どこも混むけれど、目的地へ行くのに新幹線も必要ない。電車を乗り継いで2時間というところなので、混雑はそこまで影響しないだろうと判断した。  哲はGW中は仕事が休みだというし、奏哉も陽菜も特に予定が入っているわけではなかったのでちょうどよかった。  哲からは「そっちへ出向こうか」と言われたが、なんとなく奏哉は、父親の住んでる街へ行きたかった。そこは奏哉自身も、離婚前まで住んでいた街だ。そしておそらく、母・玲子と陽菜の母親のなにかが起こった場所。  それに、隠れて会うことはもちろん可能だろうが、なんとなく父と会う時に、玲子と物理的な距離を置きたいという気持ちもあった。  その日を、玲子に何と言って出かけるか迷った。  迷った末に、陽菜や、陽菜とを通して直人にも許可を得て、置手紙を置いていくことにした。  『彼女の家に泊ってきます』  奏哉からの、玲子へのメッセージのつもりだった。    約束の日はとても良く晴れていた。  肌寒い桜の季節が終わって、日によっては夏のように暑かったり、春先に戻ったりするような気温の変化が激しい中、その日は快晴だった。GW中と言うこともあって、人出も多い。    11時に駅で陽菜と待ち合わせをして、ふたりで電車に乗る。乗り換える駅を確認しながら、立ったまま乗ったり、たまに席が空いて座ったり、気分は「彼女との小旅行」だ。  奏哉は、陽菜が一緒に来てくれて良かったと感じていた。この2時間の道のりの中、ひとりでいるとどうしても良くない方向に考えが先走ってしまう。陽菜が隣にいてくれるだけで、何気ない話をしてくれているだけで思考の暴走は抑えられていた。  最初に陽菜が一緒に行く、と言った時は驚いたし、なにより陽菜の家族が許さないだろう、と思ったけれど。  陽菜にも、直人にも、感謝しかない。  行き先は生まれ育った町なのに、そういえば引っ越してから一度も来たことがない。小学校低学年での引っ越しだったので、友達と会いに遠出することもできなかった。なので、道中の景色の見覚えもなかった。引っ越した日は電車で来たはずなのに、その日の記憶も、ほとんどなかった。    3回乗り換え、そろそろ目的の駅に着く。乗り換えを間違えないように、スマホで調べた乗り換え方法で乗り遅れないように、ふたりは慎重に駅を進んだ。最後、目的の駅へ運んでくれる電車に乗った時には、ふたりしてほっと息をついた。  友達初めての駅で乗り換えをするとき、根拠もなく堂々と進んで間違えて結果乗り遅れる人間がいたり、とにかく駅員さんに細かく聞いて確実に進もうとする人がいたりする。奏哉はそんな引っかかりがなく自然に陽菜とここまで来た。きっと陽菜と同じタイプなんだなと、いつか「二人は似てると言われた」と言った話を思い出した。確かに、こういうときの行動は奏哉と陽菜は似ていると思う。  そろそろ目的の駅に着く。  陽菜が奏哉の手をぎゅっと握る。目を向けると、陽菜が「大丈夫だよ」と小さく言って笑った。  うん、大丈夫。そう言い聞かせて電車を降りた。

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