透明な罪のゆくえ
13.ふたりの関係①

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

 もうすぐ新学期になる。  陽菜は奏哉とファーストフードにいた。  おうちデートが流れた代わりに、と陽菜が奏哉を誘った。とにかく、奏哉に会いたかった。  ハンバーガーを食べながら、どこか気まずい雰囲気が漂っていた。    久美が過呼吸を起こしてから3日経っても回復しなかった。  陽菜は心配で直人に聞いてみるけれど、「身体の不調じゃないから大丈夫だよ」というだけで、よくわからないままだった。  久美はトイレやお風呂など最低限の用事で部屋から出ては来るけれど、1日の大半を寝室で過ごしていた。食事も部屋にこもって細々と食べているようだった。顔を合わせても、あまりに覇気のない表情に、陽菜は何も言えなくなってしまう。  そんなことを奏哉に話すと、奏哉も心配そうに「そっか……」と呟いて俯いた。 「そういえば、過呼吸についてもネットでちょっと調べたの。奏哉の対応、完璧すぎて驚いちゃった」  ネットには『本人が不安にならないように周りは冷静に』と、どのサイトにも書かれていた。  奏哉が「ただの過呼吸だから大丈夫」と言い切った意味がよくわかった。 「私ひとりだったら、どうしたらいいかわからなくて私のほうがパニックになってたよ。奏哉がいてくれて本当に良かった」 「中学の頃、一度クラスメートが過呼吸になって、そのとき先生が冷静に対応して、そのあと教えてくれたんだ。あれが無かったら俺もパニックだったと思うし、内心は『過呼吸じゃなかったらどうしよう』って思ってたよ」  奏哉は本当に、経験したことをプラスにしていくんだなあとつくづく感心してしまう。  一度経験しただけで、あんなふうに動けるものだろうか。 「ずっと考えてたんだけどさ」  と奏哉が重い口を開いた。 「陽菜のお母さんが過呼吸になったの、俺の名字……母親の名前を聞いた瞬間だったよね」  陽菜も、ずっと気になっていた。  過呼吸を調べるとストレスやパニックという言葉が出てくる。  体調の問題ではなさそうだし、直人もそのようなことを言っていた。  つまり、精神的な問題ということだ。 「前にさ、もしかしたら私たちのお母さん、どちらも同じ県にいたんじゃないかって言ってなかったっけ」 「そう……知り合いなのかもしれない、よな」 「奏哉のお母さんって何歳?」 「42歳……くらい……だと思う」 「……うちのお母さん今年42歳だ」  同じ学校だったとか、友達だったとか……あり得ないことではない。  でも口が重くなるのは、久美の反応から、良い関係であったとはどうしても思えないからだ。 「奏哉がこっちに引っ越してきたのは、お父さんの不倫、なんだよね……?」 「そう聞いてる。養育費もろくに払わないって母は愚痴ってる」 「……まさか」  すごく嫌な予想をしてしまった。  女同士の、精神状態が悪化するほどの関係性。 「まさか、その不倫相手がうちのお母さんとかじゃないよね……?」 「まさか!」 「でも、倒れるほどのショックって……もしや父親が同じとか……」 「ドラマの見すぎだよ!」  奏哉は笑って否定する。  確かに、韓国のドラマとかでよくある設定だ。  たまたま出会って恋人になった人が兄妹だった――なんて。  どんな確率だろうといつも見て思っていたけれど。 「私、見たことあるの、きょうだいでの結婚がタブーなのは、出産に問題があるからというのもあるけど、『ほっとくと惹かれ合ってしまう可能性が高いから』って、小説で読んだことがある。事実なのか物語の設定なのかはわからないけど……」  そう言うと、奏哉は驚いた表情で、だけど否定せずに黙り込んでしまった。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません