「優しいとかじゃないんだ、俺がクラスで傷つく人がいないようにフォローしてるのって、すごい自分勝手な理由」 学校から近く、でも陽菜の帰り道から少し逸れたところに小高い丘のような場所がある。そこに東屋とベンチがあった。 陽菜は奏哉とコンビニで飲み物を買ってそこに来ていた。 結局、陽菜は奏哉にペットボトルのカフェラテを奢ると、奏哉は陽菜にストレートティを奢ってくれた。 「意味ないじゃん」と言うと、「俺には意味があるんだよ」と引かなかったので、ありがたく奢ってもらった。 そして、「ちょっと寄り道して行こ」と奏哉が誘ってくれたので、陽菜は内心どきどきしながらそれを隠して一緒に登った。 少し高いところにあるから住宅街を見下ろせる。天気も良くて気持ちが良かった。 「自分勝手?」 そう、と奏哉は俯き加減に言う。 「中学の時に、凄く後悔してることがあって」 と奏哉は中学1年生の時にあった話をした。 それは、鈍い痛みを伴う話だった。 * 中学1年生、クラス全体がまだ探り気味な時期、ちょっと大人ぶりたいやつらがたくさんいた。 奏哉は今と変わらず誰とでも仲良くなれる性格だったので、そんな探り気味の空気を感じつつも、そこまで気にせず仲が良く話しやすい人と一緒にいた。 小学校高学年あたりから男女の関係も少しずつ変わって来ていて、誰が可愛いとか、誰と付き合いたいとかそんな話も増えてきた。 今思えば、本当に繊細で微妙な時期だった。 ある日、いつものように休み時間に教室の真ん中に集まって騒いでいたとき、奏哉もなんともなしに親しい友達と一緒にその輪の中にいた。 昨日あのテレビ見た? とか、そんな話が始まりだったように記憶してる。 あそこが面白かったとか、あのアイドルが可愛いとか、そんな話をとめどなくしてる中で、誰かがひとりの男子に、「お前、あの芸人のギャグやれよ」と言った。言われた男は、高野という男の子だった。 おお、面白いよなあれ。やれやれー。と盛り上がる中、指名された彼は「できない」と拒否した。 盛り上がっていた空気が一瞬シン……と静まり、言い出したリーダー格のひとりが「は? つっまんねぇやつ」と吐き捨てた。 その言い方に奏哉は嫌な空気を感じたけど、言われた本人高野も「ごめんごめん」と笑い、周りもそれに倣ってなんとなく笑ってすませていたので、そのまま気にせず終わっていた。 なんとなくそれ以来、奏哉はそのリーダー格の男の傍には必要以上に近寄らないようにしていた。 もちろんあからさまに避けるようなことはせずに話しかけられたら話していたし、ノリよく応じることも多かった。 ただ、集団になったときのノリが奏哉はちょっと苦手な気がして、ヒートアップしそうなときにはなんとなく距離を置いていた。 そうやって奏哉が少し距離を置いていた間、そのグループ内で力関係ができていた。 いつの間にかクラスの空気が変わっていたことに気づいたのは、1か月ほど経った後だった。
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