「たぶん、いつもの休日と同じように誰かが『どこか行きたいー!』ってグループメッセージが入って、暇な人が行くって感じだと思う。あ、花火大会は美桜が行きたいって話出てたから行くと思う! 中学の友達とも会う約束してるの、楽しみなんだ」 唐突に夏休みの話題に変わって、陽菜は少し面くらいつつもしっかり返した。 こうやって夏休みを楽しみにできるのも、今のクラスでちゃんと友達ができたお陰だ。 楽しそうに話す陽菜を奏哉はにこにこ見てた。 「時間あったら俺ともあそぼ」 「……みんなで?」 「ふたりで」 それは、デートの誘い? 期待してしまう。 「あー……うーん、違う」 奏哉はそう言いながら一度空を仰いで、あー……と声を出して、ゆっくり陽菜を見た。 言い間違いをしたかのような、ちょっと恥ずかしそうな表情のままこちらを真っすぐ見据える。 す、と息を吸って一拍置いてから奏哉が言った。 「俺と付き合わない?」 言われた言葉がすぐには頭に入って来なくて、陽菜はただ奏哉の顔を見つめた。 奏哉の顔の横から夕暮れの色に染まって、髪がきらきらして、陽菜は現実じゃないような錯覚に陥った。 ああそうだ、声をかけてくれた時にも思った。 本当に少女漫画から出て来たような男の子だなあ。 この今の状況も、少女漫画みたいだ。 大好きな男の子が、付き合わないって言ってる―― 「……ほんとに?」 好きな人が自分を好きになるなんて、少女漫画やドラマでは当たり前に起こってるけど、現実にはそんなこと、起こるはずないと思っていた。 「陽菜と、もっと話したいし、もっと知りたいって思ったし、ちゃんと知ってほしいからさっきの話もした」 あの話を隠して、ただいいやつって思われたまま告白したくなかったんだよね、と奏哉は続けた。 ああ、そうか、奏哉はどこまでも真っすぐだ。 陽菜は嬉しくなって、ちゃんと自分も言わなきゃと思った。 「私、奏哉があの日声をかけてくれた時から、ずっと好きだったよ」 自分が人見りだと思い知らされて誰にも声を掛けられなくて、不安だらけで始まった高校生活。 友達もできて好きな人もできて、順調な高校生活だとは思っていたけれど、まさかこんなことがあるなんて。 やっぱり信じられない気持ちのまま、それでも陽菜は、夏休みも、2学期も、一層楽しみになった。 この先もきっと、楽しいことばかりが待ってると思った。 この日の夕焼けと奏哉の顔は、きっとずっと忘れられない。
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