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1: 道路ばたに たたずんでいると、藤村がくる。月も氷るような凍てつく夜のこと。藤村はずっとついて、ぼくにからかってきた。 さっきピンクのキャリーカートをひいて田村が去っていったところをみていて、ぼくが飲食店に勤めてるとて、昔あったメニューをせめて出して、厳冬の夜にまよう あはれな やどなしを よそほって、どうかどうか あたたかい御膳 御恵みをと いはむがに、あくまでも こだはる。 見当ちがいなので おかしくて、それから、辞書にのってる 或る単語について長々と論ひなど、この夜に だれも かまはない ひとりぼっちのぼくに したしみを表してくる。 昔 あおい玩具屋が入ってたはずの 一階も いまは 大手コンビニチェーンが 三色のトレードカラーを その屋のぐるりに煌々と光らせて 夜もあかるくて 上に住む人は 休まらないだろうなと ながめながらおもう。 彼のかお一面が霜にこおりつくのをみて、なみだがこみ上げるほど、かなしくなった。 それは、はじめは、黒い棘が放射状に突きでた一点の蜚行生物だった。ぼくらをよきむがにジグザグに舞ひとんでいたのが、ほそい草にとまるのをみて、地平と平行すらむその生態を、ぼくが指摘するや、かれは「さすがに 時によって生態が変るのは 生物としておかしいだろ!?」と反駁するうちに、それは おなじとび方ながら 形を変じて、蝶のすがたになっていた。普通の蝶よりずっと小さくて、そのいろは、灰白がかった、くらく しづんだ 象牙いろ。 いつか日ものぼり、春になって、しじみ蝶がぼくらの周りをとぶ。今ぞチャンス、写真だ、とて 彼に撮らす。むつかしかった 蝶の撮影。縦横無尽にひらめきながらも 今回は よく撮らせてくれて、彼は しきりに うごきまはる蝶を よくとらまへむと せめて いくどもシャッターをきる。 これだけ資料がそろへば、この蝶の名も やすくひけて、その正体が判るだろう、との下心が 適ひそうな ショットの出来に 踊る。 ズームもかなって、蝶のにじいろの羽、日に透くるも、よく撮れて、さいごのワンショットなんか 特に、あはあはとした彼の指の肌いろを背景に、ステンドグラスみたいな蝶の羽とのコントラストが 美しすぎて、、、「ぼくはこの写真のために何万を支払うだろう?」とおどけてみせる。いち彼のファンとして 100万でも惜しくない。 ねむりがあつくとりまいていったように、たづり固めむすれ、まどろみの内にとけてゆくだけで まとまってくれないほど、あはやかなゆめ。ねしなには あれほど、みまうみしたるに、これがためには、身のしひむも惜しからず とまで心に思いつつ 附けたり。 藤村?は 春になるごとに Rに変っていた。いとしい人よ。 2: たたみのへやで うでにかおをつけて うつぶしで、しろいねむりを きもちよく むさぼっていると、母が 入ってきて、ぼくの所望品をおぼえていて、弟が昔つかっていた、むらさきに 黄のアクセントカラーがはいった、蛇腹の おおきな 水出砲を、「これはどうよ?」とみせにくる。水風船とか そのたぐひには もう興味が失せてしまっていて、もう いいんだけど、、いちど言ったことを、母は よくおぼえていて、その ひとつの事に しつこく こだはりつづける、いつものくせだ。 母は その場で ながい風船を よこになびかせ、これは ひと部屋づつが区ぎられて 難易度がたかくなっているから、さいごのへやまで入れるのは無理だと 前置きしながら、口づから くうきを入れてみせるも、やはり末端のへやまで 入れることは むつかしく、のこすは 二部屋ほどまで いきかけたところで、ついに、逆流してきた、いままで自分の吐いてきた二酸化炭素どもに口を反撃され、大丈夫か!? くづほる。 忙しくて大変なのだと 事こまかに職場の愚痴をいう 母の話をきいていて、その勤め先の見当が さっぱりつかないので、そこで 今更に 改めて、「ぜんぜんわかんない。何の業種よ!?」とたづぬ。 建築設計系の事務所だと、障子窓の戸締まりをしながら、屈んだ背からこぼれる、パーマの髪を うしろで一つに束ねた たぬきあたまが みえる。 この ご時世、その齢で まともな仕事に就けている事に かまけつつも、「あぁ、よく おばさんが つとめている、、、」と返したら、気分を害したとみえ、つとめに出ていってしまう、とみせかけて、襖をあけて戻ってきて、ねむりにおちかける ぼくのしろい尻に ときおり ちょっかいをかけてきた。 時計の針はAM0:00をさす。その黄金のクロム型の針先のさまも無限無期のいみをはらんでいる。時計の台座には 銀の小さい仏像など置いてある。 何も食べてない弟とちがい、今夜のぼくは満腹で元気だ。未だ零時で これからの夜のながさを おもへば とほとほしくなるが、不機嫌そうな弟とぼくは没交渉ながら なごやかに わたっていく夜を、昨日は 二人とも空腹ながら、おなじように ながかった夜を越したのだから、今夜もいけるだろう。 ぼくはうたいだす。 玄関の植ゑ木の根もとに、ぼく用に宛てた、金いろこそ ひとしけれ、こぎたない小さい匙とちがって、こちらには、母は、きれいな大きい金のスプーンをさしたりとみて ぼくは玄関の緑以下あつかいなのだと おかしい。 ぼくはうたいながら何にでもなれる。あるときは バックバンドを したがへて あひしらい、また 混じりて音を織りなし、とおもへば、アイドル・グループのトップVo.とて、ショート・ボブに、えらのはった おもひろを照からせ、ステージの最前におどりでる。とおもへば、おなじような形をした 幾多のアイドル女にまぎれて、また裏方に ひっこんでゆくなど、変化自在な濅勢で体験をする。 身と 身のおきどころ やすからねこそ、極上のゆめをみき とおもほゆ。 かへりて おそろしかど。

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