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我が親の、あらたしき やしきを建て、その庭の広さ、いくばくか、車に乗りて 朋と連れだち 行けど行けども みちとほし。 ただ 樹草花 生ふにまかせたる しつらひなれば、こは 庭ならで 森といひてこそ ふさはしけめ とは言ふに、我は 倭の者なれば、日本庭園たる例として 亦ある 倭国の人をおきて まづ しるきものと 師のあげつれば、みな ゆかしびて 連れだちて来るなり。 木くらき 森のうちに たたずみ 見あふげ、祖がおもむきなれか、いやに 蔦ぞ まねく見ゆる。からやはき蔓し、なほしく、なのめに 空へ向かふは と見れば、ありつる樹に 早くも まがふがに そひて 伸び行くなりけり。 今はまだ 太き成樹らも もて移し来て植ゑて間もなければ、ゆるく培へる根元、葉など すでに落ちて 散りばみたれ、輪だちて盛り上がり、子といへ、おひ成りて まだしくも かかづらまうしき ころほひなれか、心寄せかてに、標めの端 近ければ見ゆる、よその庭は、日に褪せて、はるかに 卑しく とぼしけれど、生れる形は 分かず ひとしき、末まろき樹木、樊より のぞける、あなたをばかり 見たり。やがて 蔦も繁り、樹の命 とりはつるまでは、いづれか 均るらむ。 夜を 車の 行くにつれて、道の上 延へ渡せる蔓の葉、梢の末、花の蕾など 朋ばら むしり 掌に得て掲ぐを、盗人よ、いづこにか 捨つとすれ。 頭より 身ことごとく 草花におほひ かざれる者の、側に隣れる よその宅の庭にあがりこみて 土屏に もろ手さし当てて 身入れて押して、この壁といふ物の くしきがさまを 伝てて来たり。 ここは 我がある国なりければ、衆は夜も窓を蔽はで内を明かすなりけり。末つ子は いと貧しく、窓い並み いかめしき 我がやしきの隣に、色形のみ ひとしき屋にて、自が部屋もなくて、寝所まで父母と共なり、世のうつしもなければ、父母いさかふに 背を向け、窓べにて 頬づゑつきて、ただ はかなき絵本をのみ 日ごとに めくりて、未だ見ざる、外つくに あだし世に、むまれてより 何も見しらぬ身は、いかにして 想ひをくり馳すとか。

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