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甘く このめる食物 描かれたる札、あまた 床に 散らぼふゆ、本意のを取らむと 覓ぐ。白き震るふる頭 易く埋め込まるゝ すぢ紅き内 見下ろさるゝは 身づからの 珠長く、敏く聞こゆるがね ざらつきて、周りに 毛 ながやかに生ふる、内 とよむにつれて 床をはふ。相手は ちひさき女子。店のうち 入り口ちかくなり。 この駅ちかく、つねに 行く所なりけり。上より下まで さまよひて、一階に 日用の菜を売る所と、入り口 つながりたれば、あやまりて 入るも、つねのならひなり。駅に つきたる店を出づれ、隣れる外壁との間 せばきに、映画館を示す標、燈る、さびしげに 青く。鄙なれば、駅前といへども 他に目ぼしき店なく、煉瓦づくりの建物そびくに 囲まれて、目指す店 あらねば、まがへるか と いささか 心もとなくなれど、夕まぐれの 薄暮らくなれるそらに、見知れる店 二軒、縦に明りて、煉瓦壁ゆ あなたに見ゆ。 ひろき路の かたはら、こたびの 監視兼迎へは 次兄なりけり、屋根あける 平たき赤き車に 乗りつけて、黒眼鏡おひて、薄橙の上、下は 褪せたる青褲、着古して、そこら 糸まゆひ、穴あきなど、身に ひしとまつはせ、歳を経て 枯れたる肌に 若びたる出で立ち、これに似る人 現なるそ 誰、と まげども、つひし 名を当てず。 数日前、巨大動物の像ありし森に 再びあふ、まれしき事なり。冬枯れの木肌 群れ樹つ、夜目に白く浮かぶ。車の扉 ひらくたびに、おぼえある気 ちかづき、つひに、かの、くすしかりし鹿なる 真ちかく 着きつめり、兎の像も 近からむ、と 共なるにつたふ。 今 あらたしき景、写す窓ごしに あふげ、満開の桜、枝ひろげたるゆ、夜空の星々 透きのぞく、げには 蟹星雲の 空なるか、窓の 久しく用ゐざるに 錆つき汚れたるか。平面に成す窓なれば、赤く靄 平がり、白き光 飾れる、とばかり見ゆ。 我が 備はしさを 傍なる友、むがしびおこするに、「これは わざとの写具ならで、つねに傍らに帯びやすき、軽く小さきなれど、今は はた、携帯一つして用を足すらむ、」 と おぼつかなながら予ぬれ、吾がうちは たちまちに 退きて、友の貌、はるか をちなる 高層住宅の辺に 卻きぬ。 畳の室に 横なるに、家に遊びに来る 妹の朋ら二人、二階に上がり際に、裹とて 差し入れ おこせたる、平たき袋なる名に 心とまり、飴色の袋、文字せはしく ひしめく、自室まで つきて来。 つねは 己が身に つきまつひて はづれず のろはしき 弟、こたみは;血族に 罵られて おもひ分かつまじき場に、ただ一人の救ひがごと。人の、異人に いかに 貶めらると、をさなきからに、周りに なびき おもねる意 はかばかしきも いまだあらで、人言を まことや否と 捌き判く能も あらざらめ、つねに なじめるごと、ゑみこだれて 入り来。それが着る、かたき地の緑褲、白き上衣と あはせて、萎え皺ばみたる、やはげなる 股の間を、揉みしだかばや いかに、とおぼえつく。 方々より ほどこし積もりて、身にあまるばかり 所せくなりぬれ、このほどにて 他に払はむとて、寝台の下より、埃積もれる 本棚の最上まで、手入れて 聚むるに、換ふべき札なる 日本髪の女、元なる いたましき食物より、はるかに かなはし。

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