花吹雪
第三章 親友 24

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 ようやく俺の話題が尽き、二人が互いにプライベートな話をはじめると、陽菜の得意科目が国語だと知った香純は目を輝かせた。  香純は国語が苦手で、さっきみたいにあやふやな言葉を話してしまうから気づいた時は教えてほしいと熱心に乞うので、陽菜は『言い間違いは誰にでもあるから気にしない方がいいよ』と助言し、間違いは遠慮なく訂正させてもらうと約束した。  陽菜のツッコミは厳しそうだが、香純は両手で陽菜の手を握って喜んでいたので、いい先生を得られてよかったなと思った。  そういえば香純の学校は春休みの課題は出なかったのかとたずねると、香純は出なかったと即答した。  それを聞いた陽菜は『いいなあー』と心底うらやましそうに言ったが、俺たちが通うのは進学に力を入れている高校だから文句は言えない。  さらに部活について訊かれると、春休み期間中は華道の先生が学校に来られないので休みになっているという。先生は高校教諭ではなく、外部に委託いたくしているそうだ。  これまた陽菜が『いいなあー』と言うので、俺は『陽菜は好きでバレーボール続けてるんだから文句言わない』とたしなめると、彼女は口を尖らせて気のない返事をした。  昼前になると陽菜が声をあげて三人で駅前のカラオケに移動することになった。  移動する道すがら、陽菜が神保町遠征に香純を誘い、俺もぜひ一緒にと思ったが香純はあまり遠出はできないからとやんわり断られてしまった。 「そうだ。昨日から桜のライトアップはじまったよね。香純の時間は大丈夫?」 「うん。ライトアップ期間の門限は夜九時だから」 「香純、夜九時は遅いから八時には解散しような」  心配した俺が忠告すると、香純は『うん、わかった』と残念そうに呟くも了承してくれた。 「昼飯どうする? カラオケの前に何か食べて行こうか?」 「カラオケで軽いもの食べればいいよ。しっかり食べちゃうと夕方からの桜祭りで食べられなくなっちゃうし」  どれだけ食べるんだよ、と食い意地の張った陽菜に視線を送ると香純が『それでいい』と賛成したので、直接カラオケ店へと向かう。 「じゃあ、そういうことで鼻血マン、ゴチです」 「待て、なぜそうなる」 「両手に花でカラオケ行くんだから、それぐらい当然でしょ」  痛い所をついてくるなあと思い、苦い表情で香純に助け船を期待すると、彼女は曖昧あいまいに微笑むだけで陽菜の味方らしい。  まあいいか。いつも貯金してばかりなので余裕はあるし、いざとなれば神保町遠征の予算を削ればいい。  さらに婆ちゃんから小遣いをもらったばかりなのも俺の気を大きくした。  陽菜には普段から世話になっているし、香純のカラオケ初体験に一役買うのに悪い気はしない。  降参した俺が了承すると、陽菜はやったとばかりに香純にハイタッチを求め、香純はおろおろしながらも控えめに手を叩いて笑った。  開店して間もないカラオケ店に入ると、香純はコスプレ用の服を珍しそうに見つめ、隣に立った陽菜がどれでも好きなの着られると言うと、彼女は真剣に選びはじめた。  受付をすませた俺が振り向くと、二人はコスプレ用の服から離れて後ろをついてくる。  何かとんでもない服で二人が盛りあがろうとしたら、どう止めようかと内心冷や冷やしていたので安心した。  いている時間に入ったお陰か、三人だと広すぎるほどの部屋が割り当てられていた。  早速、陽菜が公園で飲んだのと同じドリンクをオーダーし、リモコンとマイクをてきぱきセットすると、香純はその全てに好奇の眼差しを送った。

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