花吹雪
プロローグ 2

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 病院に戻った母さんはそれから二週間後にこの世を去った。  通夜と葬式がすみ、心にぽっかり穴があいてしまった俺と父さんに八重婆ちゃんが母さんからと言って、手紙を手渡してくれた。  涙ながらに読んだ母さんの最期の手紙には、たくさんのありがとうとごめんね、俺の未来の可愛い奥さんに出逢えないことと孫の顔が見れないことだけが心残りだと書かれていた。  読み終えた便箋びんせんを大切に勉強机にしまうと、俺は外の空気を吸いに出かけようと思った。  玄関に向かう途中、和室に置かれた仏壇の前に父さんが座っているのに気づいた。  涙声で母さんに『何も心配いらないよ。優と俺は大丈夫だから、ゆっくり休んでくれ』と言っている。  その背中はあまりにも小さくて、見ていると鼻の奥がつん、とした。  邪魔をしないように玄関まで行くと、八重婆ちゃんに呼び止められた。 「優くん。どこか出かけるのかい?」 「うん。ちょっと散歩してくる」  俺が答えると、八重婆ちゃんはにこにこ顔で頷いた。  便箋にも書かれていたが、母さんが亡くなった後、俺と父さんは八重婆ちゃんと一緒に暮らすことになった。大人三人で決めたこの話に、俺は反対する気など毛頭もうとうない。  じいちゃんに先立たれ、八重婆ちゃんの元気がなくなったのを心配した父さんと母さんは、俺が巣立った後に八重婆ちゃんと三人で生活する予定だったらしい。それがちょっと早まっただけだから、あまりに気にしないこと、と母さんは記していた。 「川沿いの桜は今が見頃だよ、よかったら見に行ってごらん」 「わかった。遅くならないようにするから心配しないで」  そう言って、俺は履き古したスニーカーを履いて外に出た。

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