花吹雪
第二章 再会 12

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 気まずい雰囲気になるのを避けようと思い、トートバッグからCDウォークマンを取りだすと、香純は不思議そうな目で見つめてきた。  今はみんなスマホやアイフォーンで音楽を聴くからCDウォークマンは引かれるかな、と思っていたが香純は好奇心に満ちたきらきらした表情なのでほっと胸をなでおろした。  このCDウォークマンは俺が小学生の時に父さんが買ってくれた誕生日プレゼントなので、今も大切に使っている。 「音楽は好き?」  たずねると、香純はつぼみがひらくように、ぱあっと表情を輝かせて頷いた。 「大好き!」  本当は好きなアーティストは? とか質問しようと思っていたけれど、こんな表情を見せられてしまったら野暮な質問は抜きですぐに聴かせたくなってしまう。  気に入ってくれるかどうかわからないけれど、それも一つの冒険だ。 「これ、つけて」  スプリッターにつなげたイヤホンを渡そうとすると、香純の手が俺の手にふれた。 「「あっ」」  同時に小さく声を出し、驚いて手を引っこめた俺はイヤホンを落としてしまった。  ベンチから宙ぶらりんになったイヤホンを回収しながら、手がふれあった時に胸がどきっとしたと思った。  これまでで一番強い衝撃に耳まで赤くなっているのがわかる。 「音楽、聴かせて」 「あ、ああ、うん」  上の空になっていた俺に香純が控えめに手のひらを差し出してきたので、慎重にイヤホンを手渡した。  武骨ぶこつな言い方になっちゃったな、と思いながらイヤホンを耳につけるとぼんやり俺を見ていた香純は慌てて両耳にイヤホンをつけた。  大丈夫、とオッケーサインを出す香純に『じゃあ、スタート』と言って再生ボタンを押した。  この日のために、香純に聴かせたいがために春をイメージした曲と桜をテーマにした曲を編集した特別なCDだ。  爽やかな前奏に続き、音楽にのせて女性のやわらかい歌声がはじまると、香純は両手を耳にあててうっとりした表情で顔を左右に揺らした。  歌詞を暗記するほど聴いた曲なのに、さきほどの衝撃から立ち直れていない俺の頭にはひとかけらも入ってこない。  初めてふれた彼女の手は小さくて、少しだけ冷たかった。  二人で音楽を聴きながら穏やかな時間を過ごす。あたたかい陽射しとやわらかい風が心地よく、ずっとこうしていたいなと思ってしまう。  公園の時計が昼前を示したので、香純に目で合図してCDをストップさせるとイヤホンをはずした彼女は感動の息をはいた。 「どうだった?」 「どれもすごくよかった。私、音楽聴くの大好きだからとっても嬉しい。ありがとう」  そこまで喜んでくれると思ってなかった俺がおずおずとイヤホンを受けとると、香純は『また聴かせてね』と上機嫌で笑った。  その笑顔を見ただけで胸の奥がちくっとする。 「そろそろお昼だけど、どうする?」  さりげなく言ってみた。この辺りはファミレスやファストフード店をはじめ、飲食店がたくさんあるから誘いの意味も込めている。 「私、お昼には戻るって言って出てきちゃったから一旦帰るね」  ちょっと寂しいなと思って頷き返すと、香純は公園の時計を指差した。 「まだまだ話し足りないから、一時間後にまた戻って来てもいい?」 「うん、もちろん! じゃあ一時間後に」  待ち合わせが決まると、香純は手を振って公園の奥にあるもう一つの出入口へと向かい、俺は川沿いの桜並木を眺めてから駅前の立ち食いそば屋に入り、大盛りのきつねそばを食べた。  昼食をすぐに終えた俺は、残りの時間を駅前の散策さんさくついやそうと決めた。  飲食店が多いが、裏道に入ると小洒落こじゃれた雰囲気の雑貨店や海外の輸入品を扱う個人店など面白い店があるのだ。  以前から知ってはいたが、入った経験のない俺はちょっと緊張しながらお店を探検しに行った。  雑貨屋のショーウィンドウを見ると、桜祭りに合わせて桜の花びらをかたどったブローチやヘアピンなどのアクセサリーが並び、ハンドメイドだろう桜のしおりなんていうものも見つけられた。  このブローチは文句なしに香純に似合いそうだな。  黒髪の香純にはヘアピンも似合いそうだな、と想像してみたが結構な値段だったので俺は肩を落とした。  でも、二人でウィンドウショッピングなら楽しめるかもしれないと思い直す。そうすれば、香純の好みもわかるし、話題に事欠かないこの場所なら、もっと色々なことも知れるだろう。  輸入雑貨のお店も回りたかったが、スマホで時刻を確認するともうすぐ待ち合わせの時間だったので、俺は二人で来てみようと決めて公園に戻った。

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