花吹雪
第三章 親友 27

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「ライトアップはじまったね」  陽菜の声につられて桜並木に目を移すと、鮮やかなピンク色の光に照らしだされた夜桜の姿が見えた。 「うわあ、綺麗」 「うん。綺麗だな」  夕闇に浮かびあがる幻想的な光景にしばし心を奪われていると、すぐに俺たちの順番がまわってきた。  三人で店内に入るとちょっと狭い。  あらかじめ決めておいたお花見プリンを三つオーダーすると、笑顔がまぶしい女性店員さんは『すぐお食べになられますか?』と訊ねてきて『はい』と答えると人数分のスプーンを入れてくれた。  他にどういうプリンがあるのかショーウィンドウを観察する二人の横で会計を済ませると、店員さんは『桜は満開の今が見頃ですから、ぜひ楽しんでいってください』と気分があがる言葉で俺たちを送りだしてくれた。  お花見プリンはライトアップされた桜を見ながら食べてこそでしょ、と主張する陽菜の要望で川沿いに戻った俺たちは、運よく見つけたベンチに座ることができた。  食べる前に二人が財布を取りだそうとするので、俺はこれくらいはいい、と言って引っこめさせた。  三人で抹茶色のプリンをしげしげと見つめ、俺はどこがお花見プリンなんだろうと不思議に思いつつ一口食べてみる。抹茶の風味に桜の香りがただよって、確かに桜を感じる。  あまりのおいしさに今まで食べてきたプリンは一体何だったのかと思ってしまうくらいだ。 「「おいしい!」」  二人も同意見だったようで両足をばたばたさせて感動すると『こんなにおいしいプリン初めて食べた!』と頷きあい、少しずつスプーンで口に運んだ。  ライトアップされた夜桜をで、名物を堪能たんのうできるのはとても贅沢ぜいたくだなと思う。  一気に食べるのがもったいなくて、一口一口楽しんで食べていたが、それでも終わりはきてしまう。  完食を残念がる二人から容器を受けとると、俺は小走りでプリン屋に戻って回収用の箱に容器を戻してきた。  人混みをぬってベンチに戻ると、二人は立ちあがって俺を待っていてくれた。 「今日の記念に三人で写真撮ろうよ」 「いいアイディアだ」 「私、ちゃんと写るかな」  不安そうに髪をいじる香純に陽菜は、最近の携帯のカメラは高性能だから大丈夫とやんわり言う。  俺は陽菜と二人分のスマホを持つと、仲良く手をつないで歩くカップルに撮影をお願いした。  見た感じ大学生らしい二人は笑顔で了承してくれた。  ライトアップされた桜を背に、香純を真ん中に挟んで俺と陽菜が立つ。 「撮りますよー、はい、チーズ」  流れ作業で男性が彼女さんから次のスマホを受けとる間に陽菜が『もう一枚は全員変顔ね!』と無茶振りを言ってきた。  断る間も戸惑う間もなく、慌てて俺が両手で頬を押しつぶすと笑い声と共に二枚目のシャッター音が聞こえた。  すぐに受けとりに走り、笑っているカップルにお礼を伝えてスマホを返してもらう。 「あたしのは最初のやつだ。ほら」  陽菜の写真にはお行儀よく立つ香純と彼女を守るように両脇に立つ俺と陽菜が写っている。  写真写りを気にしているのか、香純は『ちょっと貸して』と頼んで画面に写った写真をつぶさに眺めた。 「よく撮れてるね。ちゃんと写っててよかったー」 「なんかあたしたち、お嬢様のSPみたい」 「たまたま立ち位置がそうなっただけだろ」  笑って言うと、二人は変顔の写真を見たがったので俺のスマホを三人でのぞきこんだ。  そこには桜に向かって何かを叫ぶ陽菜、顔面を両手で押しつぶした俺、そして中央であっかんべーをする香純が写っていた。 「あっはは、優くん、変な顔!」 「いきなりだったから」 「鼻血マンはアドリブ苦手だからね」 「もう、鼻血言うな!」  再び起きた笑いがおさまると、陽菜は写真を送ってくれと頼んでくる。 「時間見つけて印刷しとくから、それまで待ってて」  陽菜に言われた香純は嬉しそうに頷く。  素早い操作で陽菜に写真を送り、ホーム画面に戻るとそろそろ解散するにはいい時間になろうとしていた。  人の波に流される内に公園寄りの方まで歩いてきたので、俺たちは香純を公園まで送ってから解散しようと決めた。

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