花吹雪
第四章 花吹雪 39

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 傾いた夕陽を浴びて緑道までの道を歩いていくと、週末の花散らしの嵐の前にお花見を楽しもうとする人々の姿が多く見受けられた。  桜祭りとライトアップの期間はまだ続くが、満開の見頃を見逃したくない気持ちは俺もよくわかる。  そういえば桜はいつ頃から存在したんだろうと、漠然とした問いが頭に浮かんだ。  古くは花見といえば梅の花で、しだいに桜になったと聞いたことがあるが……。  そこまで考えて、はっと思った。  桜の歴史と古事記に何か関係があるのかもしれない。  それに気づいたからこそ陽菜は古事記をあんなに真剣に読んでいたんだろう。  だけど、その二つをつなぐ糸を俺はつむぐことができない。  プアァーン!  と、クラクションの音で我に返った俺は、いつの間にか緑道の手前の交差点まで歩いてきたのに気づいて足を止めた。  クラクションは俺に向けてではなかったが、ぼんやりしたままだったら危なかった。  肝を冷やすと同時にまた陽菜に小言を言われてしまうと思い、香純も加わって援護射撃をしてくるかもしれないと思うと急に恥ずかしくなって頭をかいた。  交差点を渡れば公園は目と鼻の先だ。  信号待ちをしていると突然背後から強い衝撃を受けて俺は前方に倒れこんだ。  周囲から悲鳴とざわめきが聞こえ、背中と首の痛みに顔をゆがめて振り向くと、転倒したロードバイクと運転手の姿が見えた。  四方八方から『大丈夫か!』『信号無視だ!』と声が飛んでくる。  何に激突されたか状況を把握した俺が立ちあがろうと両手に力を入れると、誰かが『危ない!』と叫んだ。  直後、先ほどとは比較にならない衝撃が全身を襲い、宙を舞った俺は幼かった頃の自分が父さんと母さんと遊んでいる姿を見た。  保育園で仲のよかった友達。小学校で優しかった担任の先生とよく遊んだ友達。中学校の陸上部で励ましあった友達。  何だ、これ。走馬灯そうまとうってやつか。  宙を飛びながら不思議と痛みを感じないまま、脳裏に笑顔の陽菜と呆れる陽菜、静かに微笑む香純、透明感のある声で歌う香純の姿が浮かぶ。  特進の彼は、俺がいなくなっても部活をうまくやれるだろうか?  高校で新しく出逢った友達たちは俺が突然いなくなったらどうなるんだ?  母さんに続いて俺がいなくなったら父さんと八重婆ちゃんはどうなるんだ?  母さんには逢えるのか? 迎えに来てくれるのか?  ああ、これは、まずい。俺は、俺はまだ―――。  着地の衝撃を全身に受ける前に俺の意識は途切れた。

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