花吹雪
第四章 花吹雪 32

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 回る予定の三店舗は甲乙こうおつつけがたく、行きつ戻りつするよりは欲しい本を見つけた時点で購入しようと決めて一軒目の暖簾のれんをくぐる。  棚の配置が変わっていなかったので、俺と陽菜はSF小説と推理小説の棚に並んで立った。  リストに目を通しながら書棚を見ると、夏にはなかった本が置かれているのを見つけ、胸の高鳴りを抑えて抜きとると十分に手が届く値段だ。  こちらの様子に気づいた陽菜に笑顔で本を向けると、陽菜は目を大きく見開いて小声で『おめでとう』と呟いた。  見落としがないようにゆっくり書棚を眺めると、陽菜が言っていた通り、引っ越しや大掃除などで在庫が増えたらしく、リストの本が次々埋まっていくのが嬉しくてたまらない。  陽菜はどうだろうと隣を見ると、スピーディーな動きで棚から本を抜きとって腕に抱えていた。  どうやら陽菜も目的の品が簡単に見つかったようだ。  最後の棚まで確認し、もう一度最初から見ようとすると陽菜が近づいてきてささやく。 「どう? もういい?」 「見落としがないか確かめたい」  囁き声で答えると、陽菜は頷いて手に持った文庫本の確認をはじめた。  さらっと棚を眺めて見落としがないのを確認すると、待っていた陽菜は指でレジに行こうと合図してくる。  会計を済ませて戦利品をそれぞれのバッグにつめて外に出ると、長らく手に入らなかった宝物を入手した俺はガッツポーズをとった。 「陽菜の言う通り、夏より掘り出し物が増えてる。誘ってくれてありがとう」  頬がだらしなく緩んでいるのを感じつつお礼を言うと、陽菜は小さく頷いて歩きだした。  あまりせっかちな方ではない陽菜の態度に、もしかしたら本命の推理小説はまだ見つからなかったのかもしれないと俺は思った。 「まだ二軒あるし、在庫は豊富だし、陽菜の買いたい本もきっと見つかるよ」 「え? あ、うん」  たどたどしい答えから落胆らくたんぶりがうかがえる。  幸運にも俺は一軒目で予定していたほとんどを手に入れたので、次は探すのを手伝ってあげたいと思った。  二軒目はこじんまりとした店舗で、SF小説よりも国内外問わずミステリ小説に力を入れているので、リストに書いた本を見つけられなかった俺は陽菜を手伝った。  一軒目と同じように陽菜は棚を見るスピードが速く、反対側から見る俺はすぐに追いつかれてしまう。  それでも二冊抜きとった文庫本を手渡すと、陽菜は価格を見て中身をぱらぱらっと確認するなりレジに行こうと急かしてきた。  俺は頷いて後に続き、陽菜の会計を待って外に出た。 「この分だと相当早く終わりそうだけど、他の店も見て回ろうか?」  まだ時刻が午後二時になっていないが、陽菜はとんでもないとばかりに首を振る。 「いい。もう大分手に入ったし、予定通り次で最後にする」 「香純との約束は夕方だし、そんなに急がなくてもいいだろ?」  気持ちを落ち着かせたくてやんわりと言うと、陽菜は歩調を緩めた。 「うん。そうね。急かしてごめん。最後は大きなお店だったから、優もゆっくり見て」 「わかった。まあ、俺も早く見たい気持ちは一緒だから気にしないで」  陽菜はこくりと頷き、本がつまったバッグを肩にかけ直した。

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