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 ふたりが音楽室を出ると、時間がないから一曲だけ合わせることにした。  甲斐先輩の大事な人に語りかけるような優しいギター。  新君のピアノへ慈愛を注ぐような穏やかなのに弾むピアノ。  そしてわたしの声が音楽室に響きだす。  こうしていると、小さな音楽室がどこまでも広がっている気分になる。  このわたしたちの世界で満ちた音楽室の中で、わたしたちはそれぞれ様々なことを想い馳せる。  想いはそれぞれ違うベクトルへ向いているのに、三人で作った曲はいつもそれぞれが抱きしめる想いを繋げてくれる。  わたしたちの奏でる音色が溜まらなく好きだと、いつもかんなちゃんは言ってくれる。  大好きなもののひとつだと嬉しそうに微笑む。   かんなちゃんはバンドのメンバーではないけれど、今のわたしたちの音楽はそのかんなちゃんの微笑みを以って出来上がる。  音を奏でる時に抱きしめる大切な想いのひとつに、みんなの共通するかんなちゃんが存在しているから、勝気な彼女の普段見せない静かに満ちたような微笑みがわたしたちの音楽の完成形。

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