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 昼休み、わたしは甲斐先輩と音楽室に居た。  甲斐先輩は怒るとそれはそれは恐ろしいのだけれど、普段はとても穏やか。そもそも滅多に怒らない。  穏やかな表情を崩さない甲斐先輩は常に何かを抱えているようにも見える。  それを顔に出すことを好まないのか、単純に気にしないでいるだけなのかはわからないけれど、翳った自分を他人に見せることがまるでない。  時々、何かの拍子に困ったように笑うことはある。  物事を整理することが得意な甲斐先輩は、形になれないものをどうやって整理しているのだろうか。 「ちょっと! その不景気面、いい加減やめろって」 「だってー、そんな気分じゃないんです」 「だってーじゃない。折角人が可愛くしてあげてるのに」 「それよりもわたしは先輩がどうしてこんなこと出来るのかさっぱり謎」  わたしは今、甲斐先輩の手によって化粧を施されている最中だった。  甲斐先輩はとにかく器用だ。だからといって男の人がお化粧を熟せるなんて思いもしない。 「あ! だから動くなって」  文化祭の打ち合わせをしながら昼食を摂ったあと、新君が教室に忘れてきたわたしの辞書を取りに出ていった。  すると甲斐先輩が鞄から小さなポーチを取り出した。文化祭でわたしにお化粧をしたいから練習させてと押し切られた。  小さなブラシが顔面をちょこまかと動く。慣れていないからむず痒くて堪らない。  化粧なんて機会がないからしたことがなかった。それはもうむずむずうずうずが止まらない。  動くなと言われると動きたくなるのが人間の性、それを我慢していたら、なんだか笑いが込み上げてきた。  わたしがくすくす笑いだしたら、甲斐先輩がご機嫌に破顔した。  背がとても高い甲斐先輩は綺麗な顔立ちをしている。大男なのに笑うと女の子みたいに可愛い。

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